南総里見八犬伝巻之二第四回
東都 曲亭主人 編次
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小湊に義實義を聚む
笆內に孝吉讐を逐ふ
卻說義實主從は、此の池、彼川と、淵をたづね、瀨に立て、途より途に日を消せば、白濱の旅宿へかへらず、ゆき/\て長狹郡、自箸河に涉獵ほどに、はや三日にぞなりにける。日數もけふを限りと思へば、こゝろ頻に焦燥のみ、獲は殊にありながら、小鯽に等しき鯉だにも、鈎にかゝるは絕てなし。千劒振神の代に、|彥火々出見尊こそ、失にし鈎を索つゝ、海龍宮に遊び給ひけれ。又浦嶋の子は堅魚釣り、鯛釣かねて七日まで、家にも來ずてあさりけん、例に今も引く絲の、紊れ苦しき主從は、思はずも面をあはして、齊一嗟嘆したりけり。


