本職こぼれはなし(012)


◎溶連菌感染症のPCR検査と、当方の似顔絵
先週から、溶連菌の有無の検査を、より鋭敏なPCR法に切り替えている。手始めの例では、立て続けに、「陽性」と判定されたのにはちょっと驚いた。感度が良すぎるための「疑陽性」か、咽頭にある常在菌的な、溶連菌を検出しているのか?一例は、発熱がやや長引く子どもであり、もう一例は、微熱ながら、また、溶連菌に特有な典型的なものではないが、全身に粟粒大の発疹が出現した子どもである。二例とも、いちご舌はほぼなかった。その後、コントロールとして(一例は、何を隠そう、小生)で、二例、PCRで陰性を確認したので、ほぼ正確な検査であることが判断された。ただ、治療不要な常在菌的な溶連菌をも検出してしまうのか、それとPCRの検査キットが結構な値段で、保険点数ギリギリまで医療機関のコストがかかることが難点といえば難点である。ちなみに、陽性の二例は、ペニシリン系抗生物質投与で、症状は改善した。

その後、仕事机の上に、ひ孫のようなちっちゃいお友達から、「ラブレター」が置かれていたのに気がついた。「ハンサム」に似顔絵を書いてくれてありがとう。

写真は、溶連菌PCR陰性と陽性の画面、それに、当方の似顔絵

溶連菌感染症については、Wikipedia などを参照のこと。

本職こぼればなし(011)

先日、冬至の日に、スーパーマーケット前で出会った、母と兄弟3人連れ、買い物の中に、かぼちゃと柚子が入っていた。6才くらいの兄がママに
― 今日は、おふろにかぼちゃ浮かべるンか?
かぼちゃ湯も一案だが、とすると、おかずは、柚子の「たいたん」になるのかな?

年の瀬も押しつまると、診療中の子どもと自然とお正月の話題になる。
― Gちゃんと、センセはお友だちになろうか?
― うん。
― お友だちやったら、困っている時、助け合わな、いかんやろ!そんで、ちょっと相談やがな、お正月に「お」のつくもん、もらうやろ!
― お年玉や!
― そしたら、センセがお金のーて、お昼ご飯も食べられへんで、おなかペコペコの時、助けてや!お金貸してや!スマホに電話するわ!
― ………
かくして、わがチャイルドビジネスは、来年へ持ち越されるのであった。

本職こぼればなし(010)

病児保育室「まつぼっくり」にて
先週から発熱が続いていたT君、採血し、白血球の数値が高かったので、ペニシリン系の抗生物質を処方した。その後、1日で解熱、元気になって、今日は念のために、病児保育室利用。検査では、A群連鎖球菌、アデノウィルスの簡易検査では陰性だったが、舌が軽くいちご舌だったので、溶連菌感染だったのかな?検査の感度の問題で、今後は、A群β溶血連鎖球菌核酸検出を、8月から保険適用なので、導入しようと思う。
同じく、微妙に続いているが元気な 3才児のS君、先日は、片足でたって、なにやら「◆◇☓△◯!」と号令をかける。今更、王貞治の一本足打法でもあるまいに、と思ったが、後から考えると、かけ声は「フラミンゴ」だと思いついた。そこで今日はカメラの前でポーズ、「フラミンゴ!」(写真)

本職こぼれはなし(009)

新型コロナ感染症も、世間の耳目から外れ、関心が薄まってきた昨今、当診療所も建物外の「プレハブ外来」も先週から中止としているが、まだコロナに罹る方も後を絶たず、しばらくは警戒が解けないようだ。そんな矢先、朝外来が開く前に、一通の「問い合わせメール」が飛び込んできた。発熱と呼吸困難がある高齢者、診療所だけでは急患対応ができないので、ただちに救急車を呼ぶようにアドバイスした。搬送先の病院では、コロナPCRが陽性、合併症として初期の肺炎があったようだ。家族の方も、発熱、当診では、同じくコロナPCRは陽性だった。まだ薄氷を踏む思いは続きそうで、気が抜けない感はあるが、3年以上続く「戒厳令」も解く頃だとも思い、気分一新の意味で、診療所の玄関を思い切り整理した。余分な文具やパンフレットを置く机、検温器を移転や撤去し、絵画などで装飾、手始めに亡母の刺繍を掲示してみた。柿が題材なので、すこし季節外れかもしれないが、また別の画なども玄関のポイントとして飾ってみようと思う。

今回は、診療所ホームページのお問い合わせ画面 が役だったが、24時間診療所開設はリソース的に無理なので、今後もお問い合わせ画面 をご活用願いたい。

本職こぼれはなし(007)

◎Frailty thy name is woman !

デイケアへ通所するIさん、送迎の車から降りても、どこか足元が覚束ない。しばらく診ていないので、「フレイル」が進行したのかなと思いきや、ズボンのゴムが緩んでいた。「Iさん、デイケア」でちゃんと直してもらいや」
「フレイル」という言葉、シェイクスピアの時代からあったようだ。悲劇「ハムレット」で王子ハムレットの母が父王の死後、義理の弟と再婚していたのに憤り、「弱きもの、汝の名は女なり!(Frailty thy name is woman !)と出てくる。Frailty は、「脆い」と訳す方が適切だろう、としんぶん赤旗日曜版 2023年12月3日づけの連載記事「松岡和子のとっておきシェイクスピア」で指摘する。実は、ハムレットの元本は三種類あり、一番古い版でも掲載されているので、一種の慣用句、格言めいたものなのであろう。
「もろきもの、おまえの名は女!(Frailty thy name is woman !)」が現代でも通用するかは、当方の関知するところではない。

フレイルとは、「65歳からの健康づくりのキーワードは「フレイル」(神戸市HP)
「医学用語である「frailty(フレイルティー)」の日本語訳で、病気ではないけれど、年齢とともに、筋力や心身の活力が低下し、介護が必要になりやすい、健康と要介護の間の虚弱な状態のことです。」

図は、しんぶん赤旗日曜版記事より、加工して添付する。

本職こぼれはなし(006)


・夫婦連れで、コロナワクチン接種にやってきたFさん。
私-家の中で、偉いもん順で、注射しますね。どちらですか?
夫君ーそりゃもちろん、連れ合いですわ。いつも、感謝してます。
妻君-ちゃいます。この人です。いつも、頼りにしてます。
私-どっちやねん?家に帰ったら、揉めなや!毎日、今日言うたことをおたがいに言い合いなさい!
・時間が限られるので、問診は、「今日の体調は?」「以前ワクチンをして具合悪くなったか?」の二点に絞っている。ちょっと耳の遠いTさんに後の質問をすると、「へえ、なんにもあらしまへん」「Tさん、日頃の行いがええさかいにやで」とのリスポンスにも聞こえない様子だったが、顔付きが笑みを浮かべたので、満更でもなかったようだ。
写真は、コロナワクチン問診票とワクチンアンプルと注射器、。

本職こぼれはなし(005)

コロナ(COVID19)のトリアージと言っても、コロナ感染症、インフルエンザ感染症だけではなく、それこそ「ふるい分け」しなければならない方が受診される。先日も、31才の成人障がい者で受診された方がいた。幼少期に脳腫瘍の手術、現在に至るまで、コロナ(COVID19)のトリアージと言っても、コロナ感染症、インフルエンザ感染症だけではなく、それこそ「ふるい分け」しなければならない方が受診される。先日も、31才の成人障がい者で受診された方がいた。幼少期に脳腫瘍の手術、現在に至るまで、ほぼ全面介助の状態。発熱となんとなく日ごろの様子と違うので受診、コロナPCR:陰性、インフルエンザ迅速検査:陰性、酸素飽和度(SpO2)がわずかに低下、血液検査とレントゲンを撮ったところ、白血球増多、炎症反応が陽性、レントゲンにて右肺に全体に拡がる像を認めた。入院適応だが、さあそれからが大変。数件の病院に問い合わせるも断れた。N病院呼吸器内科へ貴院で手術を受けた旨の紹介状を書くも満床とのことで入院できないとの返事。診療所の待合室で待機していただくこと数時間、最後の手段で救急車を要請、救急隊へ入院先をあたってもらうことにした。車が出た後の連絡によると、入院先は、断られたN病院の小児科に決まったとのこと。こんなことになるなら、一番先に小児科を当たるべきだったと悔やむことしきり。到着後には、酸素飽和度(SpO2)がさらに大きく低下、CRPも上昇していたとのこと。本当に家に帰していたらどうなったか、薄氷を踏むおもいだった。 小児科時代から診て、成人となった障がい者はこのように、小児科と成人緒科の「谷間」になることも多くみられる。連続して診療できるような体制が切に望まれる。。発熱となんとなく日ごろの様子と違うので受診、コロナPCR:陰性、インフルエンザ迅速検査:陰性、酸素飽和度(SpO2)がわずかに低下、血液検査とレントゲンを撮ったところ、白血球増多、炎症反応が陽性、レントゲンにて右肺や全体に拡がる像を認めた。入院適応だが、さあそれからが大変。数件の病院に問い合わせるも断れた。N病院呼吸器内科へ貴院で手術を受けた旨の紹介状を書くも満床とのことで入院できないとの返事。診療所の待合室で待機していただくこと数時間、最後の手段で救急車を要請、救急隊へ入院先をあたってもらうことにした。車が出た後の連絡によると、入院先は、断られたN病院の小児科に決まったとのこと。こんなことになるなら、一番先に小児科を当たるべきだったと悔やむことしきり。到着後には、酸素飽和度(SpO2)がさらに大きく低下、CRPも急上昇していたとのこと。本当に家に帰していたらどうなったか、薄氷を踏むおもいだった。

小児科時代から診て、成人となった障がい者はこのように、小児科と成人緒科の「谷間」になることも多くみられる。連続して診療できるような体制が切に望まれる。

本職こぼれはなし(004)

定期診察にやってきたKさん、いつもの通り、やたらに話が長い。
「せんせー、この頃はな~」
病児保育を、ひ孫のTちゃんが利用しているのにかこつけて…
「ちょうどよかった、Kさん、Tちゃんな、熱は下がったが、『咽頭結膜熱』いうてな、もう2日くらい病児保育にあずけたほうがええで、そない、お母さん(Kさんの孫にあたる)に言付けしといて…」
「わかったわ」
「ところで、Kさんの困ってることは何やねん」
「そないなこと、もう忘れてしもたがな」

こうして、話題をそらすのも一策かもしれない。

乳児から幼児に、夏以来、少し下火にはなったが、アデノウイルス感染症(咽頭結膜熱)が流行っている。(図左は、10月26日現在の、大阪市における、流行状況(感染症サーベイランスでのまとめ、図右はアデノウイルスの電子顕微鏡写真 Wikipedia から)特有の咽頭初見と時に結膜炎を伴うので診断は比較的容易である。迅速検査もあるが、特異的な治療法がないので、最近は、コロナPCR、インフルエンザ迅速検査優先で、あまりしなくなった。有熱期間が、他の疾患より若干長いのと、血液検査で、炎症反応がウィルス疾患では例外的に高めにでることが特徴である。

本職こぼれはなし(003)

本職こぼれはなし(002)の補足である。

今年も、保育所健診の日々がやってきた。年長児(5-6才クラス)は、今回で健診がさいごの機会となる。そこで、なにかちょっとした企画をすることにしている。やや「セクハラ」気味だが「チュー」しようか、「ハグ」しようか、と提案しても、なかなか園児の賛同が得られない。そこで、この数年来、「自分の心臓の音を聞いてみようか?」というと、診察に使っていた聴診器を自分の耳にかけたがる。子どもの手をとり、心臓の上に当ててあげる。「聞こえたかな?」「ウン、ウン」そうだ、自分の「心(こころ)」を聴いてるんだ。もし、将来、この中から、医師になる子が出てきたら、そういうお医者さんになるんだよ」と、そっと願ってみる。
健診の診察表に、保護者の質問コーナーがある。そこに「将来、医師になるためには、今何をすればいいですか?」と書かれた方がおられた。「うーーん、困った、強いて言えば、仲間とうんと遊ぶことかな?」、こんな答えでよかったかな?
あと何回、こんな毎日が過ごせるだろうか?
写真は、ある日の保育所健診での年長さんの勢ぞろい。(一部加工した)と病児保育室での「聴診実習」の様子。

本職こぼれはなし(002)

「大阪保険医雑誌」から2024年新年号への投稿依頼が来た。お題は、「音」「音色」とある。少し、気が早いようだが、腹案らしきものがあったので、したためてみた。

【聴診器で「こころ」を聞く?】(最終稿)
 月並みではあるが、医者のシンボルといえば、頚にかけた聴診器であろう。医学史によると、聴診器が世にでてきたのは、思いのほか新しく、十九世紀初め、当初は、中をくりぬいた円筒形の木で、音を聴いていたようだ。やがて、十九世紀半ばには、耳に差し込む形の聴診器が発明され、現在の聴診器の原型となる。私の研修医時代は、オーベン(指導医)の先生方は、象牙製のそれを使っておられる方がわずかだがおられた。片方の耳栓がはずれても、平気な顔で診察されるのをみて、感心したりしたのも、思い出の一つである。実際に、象牙製を使わせてもらったが、片耳はおろか両耳でもさっぱり聴こえなかった。それ以来は、もっぱら、小児用の「リットマン」の聴診器を常用している。
 医学生時代、診断学に熱心な小児科の先生がいて、心肺音を録音したレコードを聞かせてもらった。大半は忘却のかなたになったが、その後、役立ったことが一つ、聴診からは離れるが、そのレコードに、子どもの「百日咳」の咳の様子-いわゆる「スタッカート・フステン」(音楽の符号のような連続的な咳)-があった。のちに三種混合ワクチンの事故で接種が一時中止となることがあり、百日咳がふたたび流行し始めた時、ある日の外来に、舌圧子で軽く咽頭を刺激すると、レコードの音と同じような咳をする子どもがやってきた。血液検査で、百日咳と診断治療することができ、事なきを得た。学生時代、講義聴講では熱心な方ではなかったが、印象に残る音は記憶の片隅に残るもので、その先生には改めて感服した。ほかには、今ではまるで旧式になったベビーバードという人工呼吸器―複雑な回路を見よう見まねで組み立てた-をつけた未熟児の片肺の呼吸音が突然聞こえなくなり、気胸と診断、外科部長の先生のサポートのもと、一番細いネラトンカテーテル挿入で脱気を試みて、山場を乗り切ったことや、複雑心奇形の児に、酸素飽和度を高めるため、人工的に心房中隔欠損を作成する治療方法(BAS バルーン心房中隔切開)をカテーテル下に試み、みるみるまにチアノーゼが改善した時は、「ばすっ」という音が聞こえた気がして、「なるほど、だからBAS(バス)と言うんだ」と妙に納得!など、音に関することは枚挙にいとまがない。
 こうした研修医時代の忙しさの中で、時には気分的に落ち込むこともあり、たまに映画でもと観たのが、黒澤明監督の、「酔いどれ天使」だったと思う。その中で、医師役の志村喬は、世の医者のアリバイ的な聴診を揶揄しながらも、相手のやくざ役、三船敏郎の胸を旧型の聴診器で聴診し、拇指と示指でまるを作り、「お前の胸には、これくらいの空洞があるぞ」と指摘していたシーンがあり、彼の五感の鋭さに、とうてい映画とは思えず、身震いした。CTもない時代にこんな診断ができるなんて、自らの無能とは関係なく、その医者の「神々しさ」には、新たな気持ちで憧れる思いだった。
 でも後日、気がついた。志村は三船に、実際の空洞を指摘しただけではなかった。表面はみえっぱりだが、それまでの阿漕な生活に嫌気がさしていたヤクザの「心の空洞」=「心の闇」をその聴診器で聞き分けていたのだ。
 今まで、聴診器で、志村医師なみに幾人を聴き得たかは、はなはだ心もとない。ましてや、この数年来のコロナ禍で、診察室でゆっくり聴診器を当てるのもままならないが、これからは、患者さんの「心(こころ)」まで聴き分けることができる医師でありたい、とは老医晩年に至った今の見果てぬ夢の一つである。

写真左は、Baby Bird 人工呼吸器(Bird 社カタログより)、私が使っていたのはもう少し前の機種でほとんど計器類もなく回路ももっと複雑だった。写真右は、黒澤明監督「酔いどれ天使」(聴診のシーン)(Youtube では、無料でスペイン語字幕付きで閲覧できる。)
「百日咳」の咳の様子は、城北病院作成の、Youtube 動画で聞くことができる。