本職こぼれはなし(019)

 長野および松山での研究集会での発表をもとに、Paper を作った。これで一連の「学術活動」は、ひとまず終了。

病児保育における溶連菌感染症トリアージについて

大里光伸
*西成民主診療所

「子どもたちは世界で最も重要な資源です。」 1)

【はじめに】
 「病児保育」とは、乳幼児期から小学生の子どもが、病気罹患時に、主には親の就労保障のために、臨時に保育するもので、多くは自治体からの助成がある。2) 医療機関と連携の方法など様々な形態があるが、当法人では、診療所が直接その運営に携わっている。疾患の大多数は、小児期を反映して、その大半は種々の感染症である。
 A群溶血性レンサ球菌(以下「溶連菌感染」と略する)は、その中で、一定の割合を占めており、入室にあたっては、迅速に診断し、対処することが求められる。3)
【対象と方法】
 2024年1月から10月まで、溶連菌感染症で、Polymerase Chain Reaction(ポリメラーゼ連鎖反応)(以下、PCRと略する)で診断した27例を対象とした。ただし、溶連菌迅速キットのみの陽性例と、他医療機関での診断例は除外した。検査機器は、Abbott 社の、「ID NOW™ ストレップ A2」キットを用いた。測定機器そのものは、COVID19-9 流行当初に、大阪府の助成を受け、導入したものである。
【結果】
 年齢は、1~3才児 8例、4~9才児 19例と分布し、男児 10例、女児 17例であった。症状は、ほぼ全例に37.5度以上の発熱はある他、咽頭発赤 6例、特有の発疹 6例、いちご舌 5例を呈した。家族内感染は、3例、持続感染や再発例は 5例に認めた。
 病児保育利用という特質から、罹患年齢は 4-5才にピークがあるが、従来、本症の発生が少ないとされる低年齢児にも一定数あることがうかがえる。
 また、症状は、ほぼ全例に発熱を認めたほかは、溶連菌感染に特有の発疹、イチゴ舌などは、半数程度にしか見られず、身体所見のみの診断は困難である。年齢と症状の有無は、関連はなかった。
 家族内感染は、2家族、3例に認められた。また、治療後ないし、一定の時期を経てのPCR陽性例は、5例あり、「持続的感染」が存在することが示唆される。重複感染として、RSウィルス感染 1例、マイコプラズマ感染 1例があった。
【症例提示】
 持続感染と家族内感染の症例を提示する。
・症例1 4才11ヶ月 男児
 1月発熱時にPCRが陽性、抗生剤 5日投与したが、陽性所見が続くため、さらに10日投与した。この間は、頻回の発熱のため、病児保育利用が続いていたが、以来利用は見られなくなった。しかし7月にも、発熱時にPCR陽性、アモキシリン投与したが、解熱せず、マクロライド系のクラリスロマイシンを投与し、改善をみた。
・症例2 5才4ヶ月 男児
 品胎同胞および本人も、数日のインターバルで感染したが。腎炎の発症はなく、その後の発熱時にも、PCRは陰性であった。今回の対象ではないが、同胞第3子がその後、急性糸球体腎炎が合併し、入院加療となり、現在なお、顕微鏡的血尿が持続している。
【考察】
 2024年は溶連菌感染の流行年であった。昨年までは、スティックによる迅速検査のみで診断していたが、臨床症状は典型的であるが、検査では検出できなかった例や、目視による判定だけでは、判断がつきにくい例も散見された。
 文献的には、PCR判定は、従来法に比して、陽性率、陰性率ともによく一致するとある。一世代前の PCR キットでは、細菌培養法との比較で、感受性、特異性ともに、100%に近い数字が得られている。4),5) Abbott 社のパンフレットには、従来の迅速検査よりも感度が高いとされる。また使用した機器では、従来のPCR キットより検出時間の短縮が図られている。6)
【結論と課題】
・病児保育のトリアージにおいては、短時間で正確な検査結果を得られることが必須である。また不要な抗生物質投与を避ける意味でも、今回のPCR法は有用性が高いと考えられる。
・感染後の合併症リスクの一つとして、急性糸球体腎炎は、依然としてなおもあり、十分な経過観察と保護者への丁寧な説明が必要である。
・再発再燃する溶連菌感染症には、今回は、アモキシリン 10日間 2クール投与までとし、その後は症状がない場合は経過観察とした。以前は、Narrow spectrum のペニシリンGの中長期の服用で対処が可能であったが、発売中止になった今、治療に一定の困難がある。症例1のようにSecond choice として、薬剤耐性とその感受性の動向に留意しながら、マクロライド系抗生剤の使用も考慮されるが、引き続き検討の予定である。
 なお今回の研究フォーラムでの発表と本投稿は、特定の企業・団体と利益相反はない。
文献
1) Nelson Textbook of Pediatrics 19th Edition Introduction (2011)
2) 全国病児保育協議会ホームページ https://byoujihoiku.net/
3) Nelson Textbook of Pediatrics 22nd Edition Streptococcal infection (2023)
4) Multicenter Clinical Evaluation of the Novel Alere i Strep A Isothermal Nucleic Acid Amplification Test ,Journal of Clinical Microbiology Vol. 53, No. 7 (2015)
https://journals.asm.org/doi/10.1128/jcm.00490-15
5) Comparison of the Alere i Strep A Test and the BD Veritor System in the Detection of Group A Streptococcus and the Hypothetical Impact of Results on Antibiotic Utilization ,Journal of Clinical Microbiology Vol. 56, No. 3 (2018)
https://journals.asm.org/doi/full/10.1128/jcm.01310-17
6) Abbott 社パンフレット(2022)

図は、ネルソン「小児科学」19版 序文抜粋と溶連菌PCR陽性と陰性のディスプレーでの表示

本職こぼれはなし(018)

 故中村哲さんのドキュメンタリー映画とペシャワール会の中山博喜さんの講演を拝視聴した。案内ビラから→

 「百の診療所より一本の用水路を」映画のキャッチフレーズに若干の違和感を持ったことは事実であるが、実際映画を観て、その真実がよく解った。現地の人たちの疾患の成り立ちが、もっと根源的な(それには人為的な戦火による環境破壊も大きな原因であるが…)、ものを立て直さない限り解決しないのだろう。その上に立って、診療所を!という意味なのだろう。
 医者というものは、誰しも「人の役に立ちたい」との懐いを多少なりともあると思う。でも、現実は、そううまくはいかない。中村医師は、自らの次男の死など乗り越えて現実に立ち向かった。そうした姿は、当方にとって遠い、遠い目標であるが、目標にあることには間違いないのかもしれない。
 そんなことを考え、少し気が重くなり、会場を後にした。

本職こぼれはなし(017)

 全国保団連の研究フォーラムが、松山で開催され、発表があったので、参加してきた。演題は、昨週と同じ「溶連菌感染症」をテーマにしたものだが、若干「脱線」部分を削り、自分では、「アカデミック」なものになったと思っている。
 研究フォーラムでは、研修医だった頃、口泡飛ばして議論したI先生など、実に40年ぶりに再会し、「お互い年取ったなあ」とエールらしからぬ挨拶をした。その後、彼は医師会畠を歩み、相当地位の高いところまで上り詰めたはずである。
 研究会の終わったあと、バスで「しまなみ海道」をたどり、広島県の福山へ。福山城は休館だったので、鞆ヶ浦へ足を伸ばした。
 短い動画は、鞆ヶ浦での、江戸時代、朝鮮通信使が立ち寄った、福禅寺対潮楼からみた、島への渡船、沈んでしまった坂本龍馬の持ち舟を模し、3分の1の大きさだそうだ。
 写真は、研究フォーラムのオープニングでの、高校書道部による書道パーフォーマンス、赤字で「博愛」と書いていただいた。

発表内容は、以下の通りで、スライドは、こちらに掲載した。→ 溶連菌発表スライド

発表内容

<スライド01>
 大阪きづがわ医療福祉生協西成民主診療所の大里光伸です。最初に、今回のフォーラムで、発表の機会を与えられたことに、関係各位のみなさんに深く感謝申し上げます。なお、今回の発表は、特定の企業・団体と利益相反はありません。
 まず、フォーラムでは、小児科領域の発表が多くなく、皆さんにやや馴染みのないテーマですので、蛇足ながら、二つの事項について説明します。
 ご承知のように、A群溶血性連鎖球菌感染症(以下、溶連菌感染症と略します)は、小児期における Common Disease のひとつです。通常は、幼稚園、保育所児後半から小学生期に多く見られ、後述のような、急性糸球体腎炎をはじめ、いくつかの合併症に留意しなければなりません。成人期の劇症型溶連菌感染症(いわゆる「人喰いバクテリア」)とは、ゲノム的に相違があると言われています。
 次は、「病児保育」という制度です。乳幼児期から小学生の子どもが、病気罹患時に、主には親の就労保障のために、臨時に保育するもので、多くは自治体からの助成があります。医療機関と連携の方法など様々な形態がありますが、当法人では、診療所が直接その運営に携わっており、入室にあたっては、溶連菌感染はじめ様々な感染症を迅速にトリアージ診断治療し、対処することが必須となっています。
<スライド02>
 対象と方法です。
 溶連菌感染は、当法人の運営する病児保育「まつぼっくり」においても、一定数の患児が見られます。今回の発表では、抄録の例数を増やして、2024年1月から7月まで、溶連菌感染症と診断した22例を対象としました。ただし、溶連菌迅速キットのみの陽性例と、他医療機関での診断例は除外しました。検査機器は、Abbott 社の、「ID NOW™ ストレップ A2」キットを用いました。スライドは、溶連菌PCRの陽性と陰性の測定機器が示す画面です。ちなみに測定機器そのものは、COVID19-9 流行当初に、大阪府の助成を受け、購入したものです。
<スライド03>
 結果のスライドです。
 溶連菌PCR陽性児の年齢分布です。病児保育利用という特質から、4-5才にピークがありますが、従来、本症の発生が少ないとされる低年齢児にも一定数あることがうかがえます。
<スライド04>
 結果のスライドが続きます。
 症状は、ほぼ全例に発熱を認めたほかは、特有の発疹、イチゴ舌などは、半数程度にしか見られず、身体所見のみの診断は、一定困難があることが分かります。年齢と症状の有無は、関連がありませんでした。家族内感染は、2家族、3例にみられました。また、治療後ないし、一定の時期を経てのPCR陽性例は、5例あり、いわゆる「持続的感染」が存在することが示唆されます。重複感染として、RSウィルス感染 1例、マイコプラズマ感染 1例をみました。
<スライド05>
 持続感染と家族内感染の症例を提示します。
 4才11ヶ月 男児
 1月発熱時にPCRが陽性、抗生剤 5日投与しましたが、陽性所見が続くため、さらに10日投与しました。この間は、頻回の発熱のため、病児保育利用が続いていましたが、以来利用は見られなくなりました。しかし7月にも、発熱時にPCR陽性、アモキシリン投与しましたが、解熱せず、マクロライド系のクラリスロマイシンを投与し、改善をみました。
<スライド06>
 5才4ヶ月 男児
 品胎同胞および本人も、数日のインターバルで感染しましたが。腎炎の発症はなく、その後の発熱時にも、PCRは陰性でした。今回の対象ではありませんが、同胞第3子がその後、急性糸球体腎炎が合併し、入院加療となりました。現在なお、顕微鏡的血尿が持続しています。
<スライド07>
 考察にうつります。
 左図の大阪府における2024年の発生状況で示すように今年は溶連菌感染の流行年でした。昨年までは、右図のようなスティックによる迅速検査で診断していましたが、臨床症状は典型的なのに、検査では陰性となったり、目視による判定だけでは、判断がつきにくい例も散見されました。
<スライド08>
 文献的にも、PCR判定は、従来法に比して、陽性率、陰性率ともによく一致するとあります。また、Abott 社のパンフには、従来の迅速検査よりも感度が高いとされています。一世代前の PCR キットでありますが、細菌培養法との比較で。感受性、特異性ともに、100%に近い数字が得られています。
<スライド09>
 結論と課題です。
・病児保育のトリアージにおいては、短時間で正確な検査結果を得られることが必須でありますが、不要な抗生物質投与を避ける意味でも、今回のPCR法は有用性が高いと思っています。
・感染後の合併症リスクとして、急性糸球体腎炎は、こんにちなおもあり、十分な経過観察と保護者への丁寧な説明が必須です。
・再発再燃する溶連菌感染症には、今回は、アモキシリン 10日間 2クール投与までとし、その後は症状がない場合は経過観察としました。以前は、Narrow spectrum のペニシリンGの中長期の服用で対処してきましたが、発売中止になった今、治療に苦労するところです。Second choice として、薬剤耐性とその感受性の動向に留意しながら、マクロライド系抗生剤の使用を含め、引き続き検討の予定です。
 ご清聴ありがとうございました。

注】
検査の上限年齢が、15才未満となっており、成人の劇症型には、保険適応がないのは残念である。

本職こぼれはなし(016)

◎ネルソン「小児科学」新版購入

「溶連菌感染」の総説を調べたくて、”Nelson Textbook of Pediatrics 22th Edition” を少々値が張ったが、Kindle 版で購入した。紙の本で持っていたのが、19th Edition だから、だいぶ改訂されているようだ。
以前の版では、「まえがき」が格調高かったのを覚えている。

 Children are the world’s most important resource. Pediatrics is the sole discipline concerned with all aspects of the well-being of infants, children, and adolescents, including their health; their physical, mental, and psychologic growth and development; and their opportunity to achieve full potential as adults. Pediatricians must be concerned not only with particular organ systems and biologic processes, but also with environmental and social influences, which have a major impact on the physical, emotional, and mental health and social well-being of children and their families.

その訳文

  子供たちは世界で最も重要な資源です。小児科学は、乳幼児、児童、および青少年の健康、身体的、精神的、心理的な成長と発達、そして成人として潜在能力を最大限に発揮する機会など、彼らの幸福のあらゆる側面を扱う唯一の学問分野です。小児科医は、特定の器官系や生物学的プロセスだけでなく、子供とその家族の身体的、情緒的、精神的な健康や社会的な幸福に大きな影響を与える環境や社会的な影響にも配慮しなければなりません。

冒頭の “Children are the world’s most important resource. ” が特に印象的だった。19版が、2011年発行とあるから、あれから、13年経過したんだ!

長くなるが、今回の 22版の序言はこうだ。

 Since the late 19th century, pediatrics has been the only discipline dedicated to all aspects of the care and well-being of infants, children, and adolescents, including their health— their physical, mental, social, and psychologic growth and development— and their ability to achieve full potential as adults. The importance of scientific inquiry and research discovery in pediatrics and related subspecialties was cemented by the creation of the National Institute for Child Health and Development (NICHD) in 1962. As the earliest pediatricians focused on social and environmental issues that affected health (e.g., housing, sanitation, and poverty), so too are today’s pediatricians (e.g., racism, poverty, and other socioenvironmental influences). In 1959 the United Nations (UN) issued the Declaration of the Rights of the Child, articulating the universal presumption that children have fundamental needs and rights. However, the United States is the only UN member that has not yet ratified these rights. The pediatrician’s purpose is to advance the well-being of children, and thus pediatricians must be concerned with specific organ systems, genetics, and biologic processes and also with environmental, psychosocial, cultural, and political influences, all of which affect the health and well-being of children and their families. Pediatricians must be advocates for the individual child, their families, and communities because children cannot advocate wholly for themselves. Pediatricians must serve as advocates of all children irrespective of culture, religion, gender/ gender identity, sexual orientation, race or ethnicity, ability, place of birth, or geographic boundaries. The more politically, economically, or socially disenfranchised a population is, the greater the need for advocacy for its children and for those who support children. Youth are often the most vulnerable persons in society, and thus their needs require special attention. As boundaries between nations blur through advances in media, transportation, technology, communication, and economics, a global, rather than a national or local, perspective for the field of pediatrics becomes both a reality and a necessity. The interconnectedness of health issues across the world has achieved widespread recognition in the wake of new and emerging illnesses, such as COVID-19, Zika, Ebola, and severe acute respiratory syndrome (SARS), as well as familiar and persistent illnesses, such as malaria, tuberculosis, HIV/ AIDS, and vaccine-preventable illness. Additionally, health issues transcend communicable disease and are influenced by global events, such as war, ethnic wars, mass shootings, bioterrorism, the burning of the Amazon rainforest, and the growing severity of wildfires, storms, drought, and hurricanes brought about by climate change to very specific events, such as the earthquake in Haiti in 2010; the displacement of families during the Syrian refugee crisis in 2016– 2018; the White supremacist attack on a mosque in Christchurch, New Zealand, livestreamed in 2019; and George Floyd’s and Breonna Taylor’s murders in 2020.

その訳文

 19世紀後半以来、小児科学は、乳児、子供、および思春期の若者たちの健康(身体的、精神的、社会的、心理的な成長と発達)や、成人になっても潜在能力を最大限に発揮する能力など、そのケアと幸福のあらゆる側面を専門とする唯一の学問分野です。小児科学および関連するサブスペシャリティにおける科学的探究と研究の発見の重要性は、1962年に国立小児保健発達研究所(NICHD)が設立されたことで確固たるものとなりました。初期の小児科医が健康に影響を与える社会問題や環境問題(例えば、住宅、衛生、貧困)に注目していたように、今日の小児科医も(例えば、人種差別、貧困、その他の社会環境の影響)に注目しています。1959年、国連(UN)は「児童の権利に関する宣言」を発表し、子どもには基本的なニーズと権利があるという普遍的な前提を明確にしました。しかし、米国はこれらの権利を批准していない唯一の国連加盟国です。小児科医の目的は、子どもの幸福を促進することであり、そのため小児科医は特定の器官系、遺伝、生物学的プロセス、および環境、心理社会的、文化的、政治的影響に配慮しなければなりません。これらはすべて、子どもとその家族の健康と幸福に影響を与えます。小児科医は、個々の子ども、その家族、そして地域社会の代弁者とならなければなりません。なぜなら、子どもたちは自分自身を完全に代弁することができないからです。小児科医は、文化、宗教、性別/性自認、性的指向、人種や民族、能力、出生地、地理的境界に関わらず、すべての子どもたちの代弁者とならなければなりません。政治的、経済的、社会的に権利を奪われた人々が多いほど、その子どもたちや子どもたちを支援する人々に対する代弁の必要性は高まります。若者は社会で最も弱い立場にあることが多く、そのニーズには特別な注意が必要です。メディア、交通、テクノロジー、コミュニケーション、経済の発展により国家間の境界が曖昧になるにつれ、小児科の分野では、国家や地域単位ではなくグローバルな視点が現実のものとなり、必要不可欠なものとなっている。世界中で相互に影響し合う健康問題は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、ジカ熱、エボラ出血熱、重症急性呼吸器症候群(SARS)などの新興感染症や、マラリア、結核、HIV/エイズ、ワクチンで予防可能な感染症といったよく知られた持続的な感染症の流行により、広く認識されるようになりました。さらに、健康問題は伝染病の枠を超え、戦争、民族紛争、大量銃乱射事件、バイオテロ、アマゾンの熱帯雨林の焼失、気候変動による山火事、暴風雨、干ばつ、ハリケーンの深刻化といった世界的な出来事や、2010年のハイチ地震 、2016年から2018年のシリア難民危機による家族の離散、2019年にライブ配信されたニュージーランド・クライストチャーチでの白人至上主義者によるモスク襲撃事件、そして2020年のジョージ・フロイド氏とブリーオナ・テイラー氏の殺害事件など、非常に特定の出来事をもたらしました。

 この13年間、残念なことに。子どもを取り巻く環境は、よりシビアに、より複雑化している。序文に述べられている事柄も、より長文にならざるを得ないだろう。序文には記載がないが、枚挙をいとわずに言うならば、今日《こんにち》、ウクライナやガザでの子どもをはじめとする犠牲もその例であるだろう。それに、国連の「児童の権利に関する宣言」をアメリカが国連加盟国で唯一批准していないとの部分は、著者らの静かな怒りを感じる。ともあれ、老後の楽しみの一つとして、翻訳ソフトの力も借りながら、少しづつ読み進めることにしよう。

 「Pediatricianでつくづくよかったと思うのは、少し大げさかな?」とは、以前書いた。

本職こぼれはなし(015)

 秋の研究会発表第1段階が無事終了。研究会の後に、戸隠方面へ足を伸ばした。鏡池からの眺望は、雲に隠れて眺望はいまいちだっかが、それでも、雲の合間に戸隠の険しい岩峰を垣間見ることができた。

 発表した、第18回全日本民医連小児医療研究発表会発表スライド(PDF)と、発表原稿は以下のとおりである。

<スライド01>
 大阪きづがわ医療福祉生協西成民主診療所の大里光伸です。昨夜の懇親会、楽しかったですね。これで、研究会から得られるものは充分と帰ろうとと思いましたが、本日の発表残っていたのに気づき、ここ演台に立たせてもらいます。まず、最初に、このような全体会の場で発表の機会を与えられたことに、関係各位のみなさんに深く感謝申し上げます。今回の発表は、特定の企業・団体と利益相反はありません。
<スライド02>
 対象と方法です。
 ご承知のように、小児のA群溶血性連鎖球菌感染症(以下、溶連菌感染症と略します)は、小児期における Common Disease のひとつで、当法人の運営する病児保育「まつぼっくり」においても、一定数の患児が見られ、その後の治療につなげることの重要性はいうまでもありません。今回の発表では、抄録の例数を増やして、2024年1月から7月まで、溶連菌感染症と診断した症例22例を対象としました。ただし、溶連菌迅速キットのみの陽性例と、他医療機関での診断例は除外しました。検査機器は、Abbott 社の、「ID NOW™ ストレップ A2」キットを用いました。スライドは、溶連菌PCRの陽性と陰性の測定機器が示す画面です。ちなみに測定機器そのものは、COVID19-9 流行当初に、大阪府の助成を受け、購入したものです。
<スライド03>
 結果のスライドです。
 溶連菌PCR陽性児の年齢分布です。病児保育利用という特質から、4-5才にピークがありますが、従来、本症の発生が少ないとされる低年齢児にも一定数あることがうかがえます。
<スライド04>
 結果のスライドが続きます。
 症状は、ほぼ全例に発熱を認めたほかは、特有の発疹、イチゴ舌などは、半数程度にしか見られず、身体所見のみの診断は、一定困難があることが分かります。家族内感染は、2家族、3例にみられました。また、治療後ないし、一定の時期を経てのPCR陽性例は、5例あり、いわゆる「持続的感染」が存在することが示唆されます。
<スライド05>
 持続感染と家族内感染の症例を提示します。
 4才11ヶ月 男児
 1月発熱時にPCRが陽性、抗生剤 5日投与しましたが、陽性所見が続くため、さらに10日投与しました。この間は、頻回の発熱のため、病児保育利用が続いていましたが、以来利用は見られなくなりました。しかし7月にも、発熱時にPCR陽性、AMPC投与するも、解熱せず、マクロライド系のクラリスロマイシンを投与し、改善をみました。
<スライド06>
 5才4ヶ月 男児
 品胎同胞および本人も、数日のインターバルで感染しましたが。腎炎の発症はなく、その後の発熱時にも、PCRは陰性でした。今回の対象ではありませんが、同胞第3子がその後、急性糸球体腎炎が合併し、入院加療となりました。
<スライド07>
 考察にうつります。
 左図の大阪府における2024年の発生状況で示すように今年は溶連菌感染の流行年でした。昨年までは、右図のようなスティックによる迅速検査で診断していましたが、臨床症状は典型的なのに、検査では陰性となったり、目視による判定だけでは、判断がつきにくい例も散見されました。
<スライド08>
 文献的にも、PCR判定は、細菌培養法に比して、陽性率、陰性率ともによく一致するとあります。また従来の迅速検査よりも感度が高いとされています。
<スライド09>
 結論と課題です。
・病児保育のトリアージにおいては、短時間で正確な検査結果を得られることが必須でありますが、不要な抗生物質投与を避ける意味でも、今回のPCR法は有用性が高いと思っています。
・感染後の合併症リスクとして、急性糸球体腎炎は、こんにちなおもあり、十分な経過観察と保護者への丁寧な説明が必須です。
・再発再燃する溶連菌感染症には、今回は、AMPC 2クール投与までとし、その後は症状がない場合は経過観察としましたが、引き続き治療法の検討の予定です。
<スライド10>
 と、ここまでが発表のいわば「枕」でして、本題はこれからで、あと三時間ほど心してお聞きください。民医連小児科では、世紀の変わり目、2000年に第1回の小児科研究集会が鹿児島ではじまり、メーリングリストも、それを機会に発足、早いもので四半世紀になります。そのリストへの案内とお誘いをいたします。同じ内容は、前もってお配りした案内用紙にありますので、ご覧ください。印刷したQRコードでは直接、申込みメールが立ち上がります。
<スライド11>
 実は、今回のきっかけとなったのは、番場実行委員長が興味を持っていただいたことと、リストの過去の投稿を「溶連菌感染」の項目で検索したことから始まりました。
<スライド12>
 そのなかで、東京の大久保さんの小児科学会への発表文が見つかりました。リストで共同研究を呼びかけられた、その成果です。また、リストへは、長野・和田さんの「子どもの貧困」をめぐり、ご熱心な投稿もあります。
<スライド13>
 大久保さんはリストの紹介を、「民医連共済だより」にご投稿いただきました。どうぞ、ここ会場におられる方はじめ、院所にお帰りになっても周りの小児科関係者をリストにお誘いいただくようお願いします。ここ、長野の地は、高校時代から、北アルプスの山々を猟歩し、またまだ小児科医としてひよっこの時代、全国保育団体連合会の大会が山ノ内町であり、病児保育分科会で助言者の任にあり、五年間夏の時期に湯田中まで通ったいわば青春の地です。その長野で発表できたことは望外の喜びとともに、民医連小児科のたゆまぬ発展を祈念し、発言を終わります。ご清聴ありがとうございました。

本職こぼれはなし(013)

 久しぶりに、9月に行われる、ある研究集会に、1週続けて2回、演題をエントリーすることにした。以下抄録である。
演題名:病児保育における溶連菌感染症トリアージについて
【目的】
 A群溶血性連鎖状球菌感染症(以下溶連菌感染症と略す)は、小児期において、迅速な診断と適切な抗生物質治療を要する、Common Disease の一つである。今回私たちは、運営する病児保育の入室時にあたり、溶連菌検査(2023年8月からは、保険収載を期にPCR法を採用)でのトリアージを行っているので、その結果を報告する。
【対象と方法】
 2024年1月から、2024年6月まで、病児保育入室時及び在室時に行った溶連菌PCR陽性児13例の年齢、症状、治療、その後の経過につき分析した。使用機器は、アボット社ID NOW™ ストレップ A2を使用した。治療は原則として10日間のアモキシリン(AMPC)投与とその後、PCR陰性を確認してから、投与を中止した。病児保育利用は、解熱後2日間とした。
【結果】
 年齢は、1~3才児 6例、4~9才児 7例であった。症状は、ほぼ全例に37.5度以上の発熱はある他、特有の発疹 5例、いちご舌 2例を呈した。家族内感染は、3例、再発例は1例認めた。RS感染症との合併が 1例にあった。
症例1) 4才男児。溶連菌感染症の治療後は、頻回の病児保育利用はなくなった。
症例2) 5才女児、今回の対象児ではないが、品胎児で出生の、第三子。兄、姉ともに溶連菌感染。患児は、その後、急性糸球体腎炎にて入院加療となった。
【考察】
・適切な抗生物質治療にあたり、スティック法による溶連菌迅速検査も含めたこうしたトリアージは有用である。
・合併症としての糸球体腎炎は、依然としてリスクがあり、充分留意しなければならない。

本職こぼれはなし(012)


◎溶連菌感染症のPCR検査と、当方の似顔絵
先週から、溶連菌の有無の検査を、より鋭敏なPCR法に切り替えている。手始めの例では、立て続けに、「陽性」と判定されたのにはちょっと驚いた。感度が良すぎるための「疑陽性」か、咽頭にある常在菌的な、溶連菌を検出しているのか?一例は、発熱がやや長引く子どもであり、もう一例は、微熱ながら、また、溶連菌に特有な典型的なものではないが、全身に粟粒大の発疹が出現した子どもである。二例とも、いちご舌はほぼなかった。その後、コントロールとして(一例は、何を隠そう、小生)で、二例、PCRで陰性を確認したので、ほぼ正確な検査であることが判断された。ただ、治療不要な常在菌的な溶連菌をも検出してしまうのか、それとPCRの検査キットが結構な値段で、保険点数ギリギリまで医療機関のコストがかかることが難点といえば難点である。ちなみに、陽性の二例は、ペニシリン系抗生物質投与で、症状は改善した。

その後、仕事机の上に、ひ孫のようなちっちゃいお友達から、「ラブレター」が置かれていたのに気がついた。「ハンサム」に似顔絵を書いてくれてありがとう。

写真は、溶連菌PCR陰性と陽性の画面、それに、当方の似顔絵

溶連菌感染症については、Wikipedia などを参照のこと。

本職こぼればなし(011)

先日、冬至の日に、スーパーマーケット前で出会った、母と兄弟3人連れ、買い物の中に、かぼちゃと柚子が入っていた。6才くらいの兄がママに
― 今日は、おふろにかぼちゃ浮かべるンか?
かぼちゃ湯も一案だが、とすると、おかずは、柚子の「たいたん」になるのかな?

年の瀬も押しつまると、診療中の子どもと自然とお正月の話題になる。
― Gちゃんと、センセはお友だちになろうか?
― うん。
― お友だちやったら、困っている時、助け合わな、いかんやろ!そんで、ちょっと相談やがな、お正月に「お」のつくもん、もらうやろ!
― お年玉や!
― そしたら、センセがお金のーて、お昼ご飯も食べられへんで、おなかペコペコの時、助けてや!お金貸してや!スマホに電話するわ!
― ………
かくして、わがチャイルドビジネスは、来年へ持ち越されるのであった。