長野および松山での研究集会での発表をもとに、Paper を作った。これで一連の「学術活動」は、ひとまず終了。
病児保育における溶連菌感染症トリアージについて
大里光伸
*西成民主診療所
「子どもたちは世界で最も重要な資源です。」 1)
【はじめに】
「病児保育」とは、乳幼児期から小学生の子どもが、病気罹患時に、主には親の就労保障のために、臨時に保育するもので、多くは自治体からの助成がある。2) 医療機関と連携の方法など様々な形態があるが、当法人では、診療所が直接その運営に携わっている。疾患の大多数は、小児期を反映して、その大半は種々の感染症である。
A群溶血性レンサ球菌(以下「溶連菌感染」と略する)は、その中で、一定の割合を占めており、入室にあたっては、迅速に診断し、対処することが求められる。3)
【対象と方法】
2024年1月から10月まで、溶連菌感染症で、Polymerase Chain Reaction(ポリメラーゼ連鎖反応)(以下、PCRと略する)で診断した27例を対象とした。ただし、溶連菌迅速キットのみの陽性例と、他医療機関での診断例は除外した。検査機器は、Abbott 社の、「ID NOW™ ストレップ A2」キットを用いた。測定機器そのものは、COVID19-9 流行当初に、大阪府の助成を受け、導入したものである。
【結果】
年齢は、1~3才児 8例、4~9才児 19例と分布し、男児 10例、女児 17例であった。症状は、ほぼ全例に37.5度以上の発熱はある他、咽頭発赤 6例、特有の発疹 6例、いちご舌 5例を呈した。家族内感染は、3例、持続感染や再発例は 5例に認めた。
病児保育利用という特質から、罹患年齢は 4-5才にピークがあるが、従来、本症の発生が少ないとされる低年齢児にも一定数あることがうかがえる。
また、症状は、ほぼ全例に発熱を認めたほかは、溶連菌感染に特有の発疹、イチゴ舌などは、半数程度にしか見られず、身体所見のみの診断は困難である。年齢と症状の有無は、関連はなかった。
家族内感染は、2家族、3例に認められた。また、治療後ないし、一定の時期を経てのPCR陽性例は、5例あり、「持続的感染」が存在することが示唆される。重複感染として、RSウィルス感染 1例、マイコプラズマ感染 1例があった。
【症例提示】
持続感染と家族内感染の症例を提示する。
・症例1 4才11ヶ月 男児
1月発熱時にPCRが陽性、抗生剤 5日投与したが、陽性所見が続くため、さらに10日投与した。この間は、頻回の発熱のため、病児保育利用が続いていたが、以来利用は見られなくなった。しかし7月にも、発熱時にPCR陽性、アモキシリン投与したが、解熱せず、マクロライド系のクラリスロマイシンを投与し、改善をみた。
・症例2 5才4ヶ月 男児
品胎同胞および本人も、数日のインターバルで感染したが。腎炎の発症はなく、その後の発熱時にも、PCRは陰性であった。今回の対象ではないが、同胞第3子がその後、急性糸球体腎炎が合併し、入院加療となり、現在なお、顕微鏡的血尿が持続している。
【考察】
2024年は溶連菌感染の流行年であった。昨年までは、スティックによる迅速検査のみで診断していたが、臨床症状は典型的であるが、検査では検出できなかった例や、目視による判定だけでは、判断がつきにくい例も散見された。
文献的には、PCR判定は、従来法に比して、陽性率、陰性率ともによく一致するとある。一世代前の PCR キットでは、細菌培養法との比較で、感受性、特異性ともに、100%に近い数字が得られている。4),5) Abbott 社のパンフレットには、従来の迅速検査よりも感度が高いとされる。また使用した機器では、従来のPCR キットより検出時間の短縮が図られている。6)
【結論と課題】
・病児保育のトリアージにおいては、短時間で正確な検査結果を得られることが必須である。また不要な抗生物質投与を避ける意味でも、今回のPCR法は有用性が高いと考えられる。
・感染後の合併症リスクの一つとして、急性糸球体腎炎は、依然としてなおもあり、十分な経過観察と保護者への丁寧な説明が必要である。
・再発再燃する溶連菌感染症には、今回は、アモキシリン 10日間 2クール投与までとし、その後は症状がない場合は経過観察とした。以前は、Narrow spectrum のペニシリンGの中長期の服用で対処が可能であったが、発売中止になった今、治療に一定の困難がある。症例1のようにSecond choice として、薬剤耐性とその感受性の動向に留意しながら、マクロライド系抗生剤の使用も考慮されるが、引き続き検討の予定である。
なお今回の研究フォーラムでの発表と本投稿は、特定の企業・団体と利益相反はない。
文献
1) Nelson Textbook of Pediatrics 19th Edition Introduction (2011)
2) 全国病児保育協議会ホームページ https://byoujihoiku.net/
3) Nelson Textbook of Pediatrics 22nd Edition Streptococcal infection (2023)
4) Multicenter Clinical Evaluation of the Novel Alere i Strep A Isothermal Nucleic Acid Amplification Test ,Journal of Clinical Microbiology Vol. 53, No. 7 (2015)
https://journals.asm.org/doi/10.1128/jcm.00490-15
5) Comparison of the Alere i Strep A Test and the BD Veritor System in the Detection of Group A Streptococcus and the Hypothetical Impact of Results on Antibiotic Utilization ,Journal of Clinical Microbiology Vol. 56, No. 3 (2018)
https://journals.asm.org/doi/full/10.1128/jcm.01310-17
6) Abbott 社パンフレット(2022)
図は、ネルソン「小児科学」19版 序文抜粋と溶連菌PCR陽性と陰性のディスプレーでの表示