こんなご時世だから(59)

ピーター・ブルック先生曰く
「私は唯一の真実というものを信じたことがない。ある時ある場合にだけ有用である、と信じている。時は移り、私たちは変わり、世界は変化する。それにつれて、目標が変わり、視点も変わる。もちろん、ある視点を生かすためには、それを全面的に信じ、貫徹しなければならない。とはいえ、生真面目になりすぎてもいけない。「死守せよ、だが、軽やかに手放せ」」
写真はピーター・ブルック氏

日本人と漢詩(番外編2)ーこんなご時世だから(11)

◎海音寺潮五郎と詩経


海音寺潮五郎先生曰く
詩経邶風 擊鼓
擊鼓其鏜、踊躍用兵。
土國城漕、我獨南行。
從孫子仲、平陳與宋。
不我以歸、憂心有忡。
爰居爰處、爰喪其馬。
于以求之、于林之下。
死生契闊、與子成說。
執子之手、與子偕老。
于嗟闊兮、不我活兮。
于嗟洵兮、不我信兮。
兵のうたえる
どろろん どろろん
太鼓がひびく
訓練ぢやア、訓練ぢやア
いくさするちゆて
國中(くにぢゆう)支度
皆かり出されて城ぶしん
都ぢや壁つき、在郷(ざいご)ぢや砦
おいらひとりは兵士に召され
南の國にしよぴかれる
將軍さんは孫子仲
陳と宋とを仲よくさせて
その勢(せい)合わせて、鄭征伐ぢやとよ
いつもどさるることぢややら
だんまりべえで言うてはくれぬ
兵隊どもの心配は
少しも上にはひびかぬわ
傷つき、病(いた)づき、兵隊共は
あちらこちらでころころ死んだ
賴る黑馬(あを)さえどこぞへ逃げた
おらもやんがて死ぬであろ
おらがむくろをさがすなら
どこぞ林の草の下
女房よ、女房
昔お前と約束したな
死のが、生きよが、會ほが、別りよが
心がはりはしまいぞと
おらはお前の手をにぎり
老いの末まで添ひとげようと
かたい約束、おぼえてゐよう
この身になっては、その約束も
はかなく消えてしまうたわ
今は夫婦といふも名ばかり
こげいに遠くひきはなされた
何しに歸つて添ひとげられよ
ほんによほんに
あれほどかたい約束が
あだとなつたがかなしやな
海音寺潮五郎訳
ちなみに偕老は、かいろうどうけつ【偕老同穴】 の元になった言葉( http://dictionary.goo.ne.jp/leaf/jn2/37270/m0u/ )