本職こぼれはなし(017)

 全国保団連の研究フォーラムが、松山で開催され、発表があったので、参加してきた。演題は、昨週と同じ「溶連菌感染症」をテーマにしたものだが、若干「脱線」部分を削り、自分では、「アカデミック」なものになったと思っている。
 研究フォーラムでは、研修医だった頃、口泡飛ばして議論したI先生など、実に40年ぶりに再会し、「お互い年取ったなあ」とエールらしからぬ挨拶をした。その後、彼は医師会畠を歩み、相当地位の高いところまで上り詰めたはずである。
 研究会の終わったあと、バスで「しまなみ海道」をたどり、広島県の福山へ。福山城は休館だったので、鞆ヶ浦へ足を伸ばした。
 短い動画は、鞆ヶ浦での、江戸時代、朝鮮通信使が立ち寄った、福禅寺対潮楼からみた、島への渡船、沈んでしまった坂本龍馬の持ち舟を模し、3分の1の大きさだそうだ。
 写真は、研究フォーラムのオープニングでの、高校書道部による書道パーフォーマンス、赤字で「博愛」と書いていただいた。

発表内容は、以下の通りで、スライドは、こちらに掲載した。→ 溶連菌発表スライド

発表内容

<スライド01>
 大阪きづがわ医療福祉生協西成民主診療所の大里光伸です。最初に、今回のフォーラムで、発表の機会を与えられたことに、関係各位のみなさんに深く感謝申し上げます。なお、今回の発表は、特定の企業・団体と利益相反はありません。
 まず、フォーラムでは、小児科領域の発表が多くなく、皆さんにやや馴染みのないテーマですので、蛇足ながら、二つの事項について説明します。
 ご承知のように、A群溶血性連鎖球菌感染症(以下、溶連菌感染症と略します)は、小児期における Common Disease のひとつです。通常は、幼稚園、保育所児後半から小学生期に多く見られ、後述のような、急性糸球体腎炎をはじめ、いくつかの合併症に留意しなければなりません。成人期の劇症型溶連菌感染症(いわゆる「人喰いバクテリア」)とは、ゲノム的に相違があると言われています。
 次は、「病児保育」という制度です。乳幼児期から小学生の子どもが、病気罹患時に、主には親の就労保障のために、臨時に保育するもので、多くは自治体からの助成があります。医療機関と連携の方法など様々な形態がありますが、当法人では、診療所が直接その運営に携わっており、入室にあたっては、溶連菌感染はじめ様々な感染症を迅速にトリアージ診断治療し、対処することが必須となっています。
<スライド02>
 対象と方法です。
 溶連菌感染は、当法人の運営する病児保育「まつぼっくり」においても、一定数の患児が見られます。今回の発表では、抄録の例数を増やして、2024年1月から7月まで、溶連菌感染症と診断した22例を対象としました。ただし、溶連菌迅速キットのみの陽性例と、他医療機関での診断例は除外しました。検査機器は、Abbott 社の、「ID NOW™ ストレップ A2」キットを用いました。スライドは、溶連菌PCRの陽性と陰性の測定機器が示す画面です。ちなみに測定機器そのものは、COVID19-9 流行当初に、大阪府の助成を受け、購入したものです。
<スライド03>
 結果のスライドです。
 溶連菌PCR陽性児の年齢分布です。病児保育利用という特質から、4-5才にピークがありますが、従来、本症の発生が少ないとされる低年齢児にも一定数あることがうかがえます。
<スライド04>
 結果のスライドが続きます。
 症状は、ほぼ全例に発熱を認めたほかは、特有の発疹、イチゴ舌などは、半数程度にしか見られず、身体所見のみの診断は、一定困難があることが分かります。年齢と症状の有無は、関連がありませんでした。家族内感染は、2家族、3例にみられました。また、治療後ないし、一定の時期を経てのPCR陽性例は、5例あり、いわゆる「持続的感染」が存在することが示唆されます。重複感染として、RSウィルス感染 1例、マイコプラズマ感染 1例をみました。
<スライド05>
 持続感染と家族内感染の症例を提示します。
 4才11ヶ月 男児
 1月発熱時にPCRが陽性、抗生剤 5日投与しましたが、陽性所見が続くため、さらに10日投与しました。この間は、頻回の発熱のため、病児保育利用が続いていましたが、以来利用は見られなくなりました。しかし7月にも、発熱時にPCR陽性、アモキシリン投与しましたが、解熱せず、マクロライド系のクラリスロマイシンを投与し、改善をみました。
<スライド06>
 5才4ヶ月 男児
 品胎同胞および本人も、数日のインターバルで感染しましたが。腎炎の発症はなく、その後の発熱時にも、PCRは陰性でした。今回の対象ではありませんが、同胞第3子がその後、急性糸球体腎炎が合併し、入院加療となりました。現在なお、顕微鏡的血尿が持続しています。
<スライド07>
 考察にうつります。
 左図の大阪府における2024年の発生状況で示すように今年は溶連菌感染の流行年でした。昨年までは、右図のようなスティックによる迅速検査で診断していましたが、臨床症状は典型的なのに、検査では陰性となったり、目視による判定だけでは、判断がつきにくい例も散見されました。
<スライド08>
 文献的にも、PCR判定は、従来法に比して、陽性率、陰性率ともによく一致するとあります。また、Abott 社のパンフには、従来の迅速検査よりも感度が高いとされています。一世代前の PCR キットでありますが、細菌培養法との比較で。感受性、特異性ともに、100%に近い数字が得られています。
<スライド09>
 結論と課題です。
・病児保育のトリアージにおいては、短時間で正確な検査結果を得られることが必須でありますが、不要な抗生物質投与を避ける意味でも、今回のPCR法は有用性が高いと思っています。
・感染後の合併症リスクとして、急性糸球体腎炎は、こんにちなおもあり、十分な経過観察と保護者への丁寧な説明が必須です。
・再発再燃する溶連菌感染症には、今回は、アモキシリン 10日間 2クール投与までとし、その後は症状がない場合は経過観察としました。以前は、Narrow spectrum のペニシリンGの中長期の服用で対処してきましたが、発売中止になった今、治療に苦労するところです。Second choice として、薬剤耐性とその感受性の動向に留意しながら、マクロライド系抗生剤の使用を含め、引き続き検討の予定です。
 ご清聴ありがとうございました。

注】
検査の上限年齢が、15才未満となっており、成人の劇症型には、保険適応がないのは残念である。

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