読書ざんまいよせい(087)

巖窟王(上 その11)
アレクサンドル・デュマ著
黒岩涙香譯

巖窟王 : 一二一 神の言葉

「オヽ兄嫂あによめ阿淺おあさも、蛭峰の私生兒辨太郎も、何か意外の災難にでも逢つたのか」と伯爵は靜かに問ふた。

春田路は殆ど泣き聲に爲り「お聞下さい、私は暮内法師に救はれると、直にコルしかへ立寄りましたが、家は燒けて了ツて焦げた地面のみ殘り、其處へ村人が集まツて、一個の死骸を棺に收めて居るのです、此れが阿淺おあさの死骸です、村人どもは私の顏を見て『お前が一週間早く歸つたならば此樣な事も無かツたらうに』と口々に悔みました、能く聞きますと、辨太郎が他の惡友逹と共に阿淺おあさを縛り、臍繰金を出せと云ひ、樣々に責て責殺し、爾してわづかばかりの品物や有金などを引攫ひきさらつて、跡へ火を附けて逃亡したと云ふのです、其惡友逹は直に捕はれ、白状して刑に服しましたが、辨太郎だけは其切り何處へ行つたか今以て分らぬのです、私は泣く〳〵阿淺おあさを葬ツて爾して貴方の許へ上ツたのですが、此んな恐ろしい事が又と世に在りませうか、私は思ひました『是れも全く蛭峰を殺した報である、蛭峰の私生兒が父のかたきを私の兄嫂あによめに返したのだ』と、ハイ斯う思ひ出してから私は自分の過越し方が恐ろしく、何うしても人間は善で無くては成らぬと感じ、時々心で蛭峰の靈に向ひ謝罪の祈りを捧げて居ました、其れだのに今夜丁度、其の蛭峰を殺した場所へ立歸る事になツたとは能々の事ですよ、或は斯うして私の立つて居る足の下にも、蛭峰の死骸が埋まつて居るかも知れません、オヽ伯爵、早く私を此家から連出して下さい、茲に落着いて居る心は致しません、逃る事の出來るものなら逃て了ひ度いと思ひます」

眞に逃も去らん程の状である、伯爵は少しも騷がぬ「コレ春田路、其れは其方の迷信と云ふものである、能く聞け、此世の事は善も惡も、罪も報も、總て神の配劑に出づるのだ、果して蛭峰は其まゝ死んだか、或は生返て猶だ此世にながらへて居るか、其れは分らぬけれど、彼は短劍で刺される丈の罪が有つたので神が其方の手を以て刺させたのだらう、能くは知らぬが蛭峰と云ふ人は仲々の惡人と云ふ事だから、其方に刺された丈で果して罪が亡びたか、イヤ恐らくは未だ亡びまい、亡びぬとすれば、他日又誰かの手を以て更に相當の罰を與へるかも知れぬ、何も其方が彼を恐れ此家を恐れるには及ばぬ事、神は惡は惡を以て打ち、毒を以て毒を攻める、更に彼の辨太郎の如きも、實に珍しい惡人では有るが、必ず神の手で、他の珍しい惡人を懲すが爲に用ひられる時が有らう、今は行方が分らずとも、愈々神が彼を必要とする場合には、彼は何處からか現はれて來るかも知れぬ、此邊の理を能く考へれば別に恐れおのゝく事も有るまい、おれなども不肖ながら惡を懲して善を勸める神の道具に使はれゝば、其れほど有難い事は無いと信じて居る」

何とやら伯爵の言葉は、神の言葉の樣である、辨太郎の未だ生て居て、今何處かに居る事から、他日何の樣な場合に現はれるかまで知つてゐる樣に聞える、春田路は深く感じて「成ほど私の樣な者でも、蛭峰の惡を罰する道具に使はれたのなら、今更恐ろしくは有ません」と答へた、けれど猶ほ充分には恐れが消えぬ樣である。

伯爵は之より更に此家の總體を見廻して造作や修繕の事に付き春田路に詳しく差し圖を與へた末、エリシー街の本邸へ引上げた、此時は夜の十時過であつた。

* * * *

此日は伯爵が巴里へ着いた第一日で有るのに、朝の十時半から夜の十時後まで、間斷無しに働いて殆ど他人が一週間も掛かる程の仕事をしている、實に驚く可き根氣である、翌日からは何れほどの仕事をするだらう、併し未だ伯爵の此日の用事は之に盡きぬ、本邸へ着くと共に、又も其の造作を見廻つた上、多少の差し圖を發し、更に黒奴 亞黎ありーを呼び「今から一時間の後、此家へ鞆繪姫の着くのは既に知らせて置いたが、姫の居間、寢間ともにおれの差圖した通りに出來てゐるのか」と問ひ亞黎ありーが點うなづくを待ち更に「其れから今まで姫に付いてゐる女中の外に、巴里の女を三人、侍女こしもととして雇ふて置く樣に命じたが、其れも好いのか」亞黎ありーは又 點頭うなづいた、伯爵「巴里の女が若しも色々の事を聞きたがり、姫の寢る時間を妨げては成らぬから其樣な事の無い樣に、爾して又希臘から來てゐる女中と巴里の女中と、決して雜談などせぬ樣に總て其方が取締れ」亞黎ありーは一々呑み込んで退いた。
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読書ざんまいよせい(078)

◎巌窟王(巖窟王)(上 004)
アレクサンドル・デュマ著
黒岩涙香譯

巖窟王 : 三一 例の物音

一椀の肉汁すうぷも幾分か友太郎の身に生氣を附けた、イヤ死んでは成らぬ、死んでは成らぬ、兎に角も壁に響くかすかな物音が誰の仕業しわざであるか其れを見定める迄は此命を保存して置かねばならぬ。

若しや此の物音が、我身の此牢から出られる發端では有るまいかと、此樣に疑ふと何と無く氣が騷いで、疲れた身體からだも動悸が打つ、ア身を大事にして分る時まで氣永く待つてゐねば成らぬ。

此時が夜の九時頃である、再び彼れは寢臺に歸つた、爾して夜の明けるまで、夢だかうつゝだか同じ物音の絶えず聞える樣な氣がした。

夜が明けて見ると物音はんでゐる、昨夜少しばかり胃に食物を入れた爲めか今までに覺えぬ程の餓を感じ、かすかに胃の底に痛みを覺えるけれど、氣持は、昨日より幾分か力が附いた樣でも有る、今若しも此望みが、今までの總ての望みと同じく又消えて了つたなら何うであらう。

其の中に牢番が朝飯を持つて來た、何しろ幾日も絶食した身が急に平生ほど喰べては病氣に成らうも知れぬからと、早自分で用心する氣の出たのは、死を祈つてゐた身の餘り得手勝手であると我身ながら極りも惡い、けれど兎も角も身は大事だ、又も肉汁すうぷだけを飮み、外に三日に一度與へて呉れる魚の肉の、骨の無い所を少しむしつて喰べた、勿論 身體からだに病氣が有ると云ふのでは無く、健康なものを無理に自分で攻め付けてゐたのだから、少し攻め方を弛めさへすれば直に力が囘復するのだ、僅ばかりの食物で、甚く不足は感ずるけれど早氣分だけ殆ど常にかへつた。

爾して又も壁に耳を當て聞いてゐると、朝の十時とも思はれる頃又彼の音が聞え初め中食ちうじきの頃に成つてんだ、けれど午後に又初まつた、何だか最初よりは其の音が荒々しい、其れとも幾分か近く成つた爲に、能く聞えるに至つたのかも知れん。

此翌日に及んで、或は典獄が職人を入れて隣の室をでも修繕してゐるのでは無からうかとの疑ひが起きた、若し爾ならば此身の助かる發端では無くて此土牢の益々堅固になる知らせと同じ事だ、仲々喜んでなどはゐられぬ。

若し是れが囚人の仕業しわざで、牢破りの企てならば、此方こつちから物音を送れば、必ず驚き恐れて止めるで有らう、大工か職人ならば其の樣な事に頓着せぬ、好し、之を先づ試して見やうと思ひ、唯だ一脚充てがはれてある腰掛臺を持つて來て、音が此の邊から聞こゑると思ふ壁の局部を、其の脚で強く叩いた、只一叩きであるけれど、向ふの音はピタと止んだ。

さては確に囚人である、此牢を破つて居るのだ、斯う思ふと無益に驚かせて止めさせたのが遺憾に堪へぬ、今に再び初まるか知らんと、耳を澄して待つてゐると、日が暮れても初まらぬ。

全く誰かに勘附かれたと悟り其の企てを中止したのだ、誠に濟まぬ事をした、何れ程か向ふは失望したであらう、イヤ向ふが中止すれば今度は此方こつちで企てゝ遣らう、向ふが何んでも此方こつちへ向つて掘つて來る所で有つたに違ひ無いから、此方こつちから向ふへ掘つて行けば好いのだらう。

斯うなると少年だけに氣み輕い、直にも着手したい樣に思つて牢の中を見廻したが牢を破る樣な道具の此中に在る筈は無い、爾して而も牢の壁はセメントで固めたもので巖の樣に成つてゐる、思ふは易いが行ふは實に難い。

けれど難い事は今初めて知る譯で無いのだからあらためて驚きはせぬ、見廻す目先に留まつたのは自分が食噐に用ふる皿で有る、之れでも道具に使へるだらうと直に取上げて床の上に落して碎き其のかけらの中で、最も鋭く見えるのを二片ふたひら取つて隱した。

若し陶噐せとものかけら泥阜でいふの要塞が破れたなら其れこそ天下の竒觀であるけれど、彼れ自身は爾は思はぬ、先づ着手は夜に入つてからと待つて居る中に、牢番が夕飯を送つて來たが、噐のこはされて居るのを見て多少機嫌を損じたけれど「噐物をこはすと減食の罰に遭ふぞ」と叱つた儘、皿のかけらは拾ひもせずに立去つて又暫くして外の皿を持つて來た。

かけらを其まゝ殘して呉れる有難さは譬へ樣が無い、食事の後で友太郎は、之を拾ひ集め、へやの隅へ隱して置いて、其上で自分の寢臺を 取退け、晝間は其影に隱れて了ふ所へ先づ傷を附け初めた。

丁度此邊が、向ふから物音の聞えた見當に當るらしい、壁のセメントを、皿のかけらで引掻いて又引掻き、かけらの角が丸くなれば又碎いて角を付けては引掻き夜の二時に及ぶまで魂氣こんき能く續けたが、熱心と云ふはえらいものだ、疲れて寢る頃には粉になつて落ちたセメントが手のひらに滿ちる程で有つた。

翌朝、食事の後に又も寢臺を動かして着手したが、昨夜着けた傷の大きさで計算して見るに、毎日十時間づつ二年の間續けたなら、人間の脱けられる大きさの穴を、凡そ三間位掘り込む事が出來さうだ、今まで幾年經つたのか、壁に附けた筋のこよみも三年ほどで止めたけれどう六年は經つて居やう、入獄の初めから若し遣つて居たなら既に牢の外まで突拔けて居るかも知れぬのにと今更殘念な感じもする。

段々と掘るに從ひ、又割合に潰れ易い所も有り、此日の中に壁に塗込んである石にまで屆いた。石の周圍まはりを掘り減らして、一度に石一個を拔き取る事が出來れば其の跡は一日掘つたよりも大きな穴と爲り、石から石へと意外に進歩が早いかも知れぬ。

掘る事三日に及んで、石一つを外し得たが、無論牢番の來る頃には其の石を元へ差込み寢臺も元の通りにして置くのだ、けれど若し是よりもでかい石に出會でつくはせば、てこで無くとも幾分か長い力の有る鐡噐で無くては可けぬ譯だが、せめては火箸でも好いから手に入らぬか知らんと、只管ひたすら肝膽たんかんを碎きつゝ今度は又 やゝ大きな石を拔き得た。

丁度此時である。數日來 んで居た例の物音が又も壁の向ふから聞えて來た、今度は石を拔いた跡の穴へ首だけ突つ込んで聞くのだから能く聞える、確に壁を引掻いて崩して居るのだ、是れで見ると一度は物音に驚いて止めたけれど、其の後別に危險らしい事が無いので又安心して取掛ッたものと見える。

何の道具で遣つて居るのか兎に角餘程進歩して居ると見え時々槌で叩く樣な音もする、此方こつちの仕事はまる兒戲まゝごとの樣なものだから向ふへ聞える筈が無いが、其れにしても早晩は穴と穴との出會でつくはす時が有らう、之を思ふと自分でも怪しい程氣が勇んで、殆ど疲れると云ふ事を知らぬ。

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読書ざんまいよせい(077)

◎巌窟王(巖窟王)(上 003)
アレクサンドル・デュマ著
黒岩涙香譯

巖窟王 : 二一 其顏を此窓から

戸を叩く其人が確に我父野々内に違ひないと蛭峰は感じた。若し之が世間普通の息子で有つて世間普通の場合ならば必ず喜んで戸口まで立つて行き兩手を擴げて迎へ入れる所だらう、所が蛭峰はうでない、我父と感ずると共に全く顏の色を變へた。

尤も彼の氣質としては無理もあるまい、今父は恐ろしい嫌疑を受けて警察から獵立かりたてられて居る人である、うして自分は此樣な父を持つたと世間に知られてさへ出世の妨げとなる場合である、してや只た今、國王から非常な忠勤をめられて、暗に遠からず恩賞に與る如き約束まで得て御前を退いたばかりだもの、若しも我父の樣な國王の朝廷を轉覆しやうといふ黨派の巨魁が、我が宿を尋ねて來たと分つては、我が後に何れほどの損害となるかも分らぬ。

けれど戸を叩く人の方は少しも此樣な頓着はない 父「何時まで父を戸の外に待たせて置くのだ」となかば笑談ぜうだんの樣にいひつゝ自分で戸を推して入つて來た、如何にも警視長官が先刻國王に上奏した通りの人相である、顏中髭と云ひ度いが、實は髭髯ひげの中から目と鼻ばかり出して居るのだ、爾うして外套から杖に至るまで諜者てふじやが認めたといふ時の儘である、蛭峰は身震ひせぬ譯に行かぬ。

野々内は笑つた 父「オヽ今に初めぬ其方そなたの孝行には感心した」蛭峰は返辭もせぬうち給使に向ひ 蛭「う好いから、呼鈴よびりんを鳴らすまで彼方あつちへ行つて居よ」と命じた、成程亂暴な父の言葉を他人に聞かれるのは辛いだらう、爾うして自分で立つて給使を送り出す樣に廊下の所まで行き、給使が全く階段を下り去るさまを見屆け、其上で内から錠を卸して、初めて父の前に戻り蛭「阿父おとうさん何か御用事ですか」と問ふた、仲々堅固な用心である。

父「ホゝ、爾うまで用心せずとも、ナニ父は聞く事さへ聞けば直に歸るのだよ」と云ひつゝ席に着いたが、其容子の何となく大膽で且つ鷹揚な所は流石に一黨の名士である、過激かは知らぬけれど、兎に角物に動ぜぬ大人物の風采が見える、之を目から鼻へ拔ける樣な蛭峰に比べて見ると先獅子と狐程の相違と云つて好い、何うして此樣な子が出來たゞらう。

蛭峰「聞く事は何ですか」父「ナニ馬港まるせーゆへ着いた商船の消息だよ、若し其方が彼地かのちを出發する前に、巴丸といふ船が入港した樣には聞かなんだか」聞いたも聞いたも生涯忘れぬ程に聞いて居るのだ、蛭峰「分りました、阿父おとうさんは其船の船長呉氏といふ人が、エルバ島から密書でも持て來はせぬかと心待に待つて居るのでせう」父「爾うよ、待兼たから聞きに來たのだ」蛭峰「可けません、阿父おとうさんはう其樣な陰謀はおしなさい、何うしても露見せずには濟みませんから」父「露見すれば何が惡い」蛭「貴方の身が危險です、實は阿父おとうさん其の呉船長は船中で病死して、死際に自分の手下へ其密書を托しました、所が其手下が上陸するが否や拘引せられ、私の調べを受て、密書を私へ渡しました、其れを私が燒捨てたのです、貴方を助け度い爲に」自分を助け度い爲にとはいはぬ、父「フム其親切は有難い樣なものだが、其方のする事は何うもおれには合點が行かぬ、けれど燒いたものなら今更仕方がない、成るほど、爾して其方は、其事を上官へ旨く上申する爲に上京すたのだな」蛭「ハイ、少しも貴方の名を出さずに、横領者の歸國だけを陛下の耳に入れねばならぬと思ひ、急いで上京したのです」

野々内は驚きも喜びもせぬ、只相變らず泰然自若と構へた儘で父「其方の仕さうな事だ、シタガ國王は其方から知らされて初めて皇帝の上陸を知つたのか」蛭峰「爾です」父「其樣な迂闊な事で國民に對し政治の責任が盡せると思ふかなア、警視廳へは年百五十萬圓の機密費を使はせてさ、早く我黨の世にならねば蒼生さうせいの不幸此上なしだ」蛭「其樣に仰有おつしやるけれど國王の警察は貴方の思ふよりも機敏ですよ、既に毛脛けすね中將の暗殺された事件なども餘ほど詳しく探つて居ます」と、父の荒肝あらぎもを奪ふ積りで口を切つた。

けれど爾ほどには驚かぬ 父「何だ毛脛けすね中將の暗殺、ナニ彼れは暗殺ではなく自殺だらう、セイヌ河に死骸が浮いて居たといふぢやないか、おれは聞いたけれど身を投げた事かと思つて居た」蛭「アノ氣の確な將軍が何で身投げなどをするものですか、殺された上で投込まれたと誰も鑑定して居るのです、其れのみか中將が其前夜に、サンヂャック街の或家で開いた拿翁なぽれおん黨の祕密會合へ招かれて出席した事も警察は知つて居ます、其れ切り宅へ歸らなかつた相ですから、後は誰にでも推量することが出來ます」

父「爾かなア、彼の祕密會の事まで分つて居ては、なるほど、幾等愚な警察でも推量が屆くだらう、けれど暗殺ではないのでよ、實はおれも其の席に列したが、中將は吾々の魂膽から今度の計畫まで默つて聞いて了つた上で、愈々いよ〳〵一同の血判と爲つた時、おれは王黨で、拿翁なぽれおん黨ではない、決して血判には加えはらぬと斷言した、勿論會員の立腹は一方ひとかたでなく、直ぐに其場で中將を刺殺すと云つたけれど、中將を其會へ誘ふて來た會長が — 」蛭峰は驚いて父の言葉の終るのを待つて居られぬ 蛭「エ阿父おとうさん、中將を其會へ招いた人が其祕密黨の長ですか」野々内は少し笑つて、父「爾と見える、ア聞け、其會長が會員一同を推宥そいなだめ、中將をして、生涯今夜の事を他言せぬといふ堅い神聖な誓ひを立てさせ、爾して無事に歸して了つた、是までの事はおれが能く知つて居る、其の歸り路で死んだのだからおれは自分で河へ落ちたのだらうと思つて居た」蛭峰「其樣な事情なら愈々いよ〳〵以て暗殺です、黨員が待伏して居て殺したのです」父「しや爾とした所で、暗殺などゝ其樣な聞苦しい言葉を加へて呉れるな、政治の上には決して暗殺といふ事はないよ、唯妨害物を取除くに止まるのだ、譬へば其の方がおれの黨の者を捕へ之を死刑に處したとておれの方では蛭峰が我黨の者を暗殺したとは決していはぬ、若中將が我黨に殺されたなら其は必ず我黨の法律に從ひ我黨の裁判を受て死刑を行はれたのだらう、ア道理は爾ではないか」

祕密の黨派が、黨の法律とか裁判とかいふのは蛭峰に取つては非常な耳障りである、けれど其處は父子おやこといふ間柄だけに深く爭ひはせぬ蛭「シタが阿父おとうさん、警察では既に其の中將を案内した人の人相まで詳しく知つて居ますよ」是には野々内も幾分か驚かぬ譯には行かぬ、父「何だ其の案内した人の人相を、ドレ何の樣な人相だと其の方は聞いた」蛭峰は父の顏をジツと見詰て蛭「ハイ私の聞きまんしたには、頬髯が黒くて澤山あつて」野々内は自分の頬髯を撫つつ、父「フム、頬髯が黒くて澤山あつて、其れから」蛭「其れから背が高くて」父「背が高くて」蛭「紺色の外套を襟まで〆めて」父は又自分の色紺[紺色の誤りか?]の外套を見廻しつゝ、父「感心に知つて居る、其れなら早く捕まへ相なものではないか」蛭「う遠からず捕まへませう、昨日既に其の人をヘロン街の入口までけて行つて見失ひ、今日も充分手配りが行渡つて居ると云ひますから」

父「では今も網を張つて居るかも知れん」と野々内は云ひ乍ら、と窓の所へ行き、外の樣子を窺つて見やうとした、蛭峰は背後うしろから飛び附く樣にして引戻した、其の顏を此 へやの窓から出されてたまるものか、けれど野々内は早外の容子を見て取つた父「成程 其方そちの云ふ通りだ、向ふの角に三人ほど此家の入口を見張つて居るわい、其の中の一人は確に去年 おれの兄弟分を捕縛に來た捕吏だよ」蛭峰は全く顏色を失ふた、蛭「エ、捕吏が此家の入口を見張つて居ますか」若し父野々内が 此室へやで捕縛されては、父の捕縛される事は構はぬけれど自分の身が大變である、蛭「阿父おとうさん貴方は息子の身を亡ぼすのですか」と恨めしく打叫んだ、野々内は猶ほ顏中の髯の動きに微笑を浮べて 父「驚くな、驚くな、王黨の警吏に捕縛されるほど未だ此父は耄碌は仕て居ないから」
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読書ざんまいよせい(076)

◎巌窟王(巖窟王)(上 002)
アレクサンドル・デュマ著
黒岩涙香譯

巖窟王 : 一一 宛名は誰れ

呼出された友太郎の入つて來る迄に、蛭峰檢事補は自分の事を考へた、イヤ考へるともなく自分の身の上が胸に浮んだ。

尤も胸に浮ばずには居られぬ際である、米良田めらだ家といふ樣な勢力ある貴族の婿になれば追々出世の道も開けるに極つて居る、其れに妻たるべき姫君禮子は顏も心も美しい上に六萬圓の婚資を持つて居る、六萬圓といへば檢事補の月給の幾十年分にも當るだらう。

此樣なことまで急がしく腹の中で計算するは嬉しさの滿々て居る爲である、婚資の外に、禮子の父が死ねば、其財産が廿萬圓、之も禮子の物になる、母が死んでも凡そ其れに近い財産が矢張り禮子に轉がり込む、禮子の物は我物である、唯一つ氣に掛るのは自分の父の野々内が今以て革命家か謀反人かの樣に世間から疑はれて、其れがやゝもすれば自分の出世の邪魔になる一事である、此の一事を除けば自分の前途は晴々と晴れて居る。

此樣な考へが未だ充分には了らぬ所へ友太郎が這入つて來た、蛭峰はあわてゝ自分の顏から嬉しさの色を取退け、職務相當の眞面目な面持を現はした。

友太郎を連れて來た捕吏の長は先づ蛭峰の傍に來て小聲で以て捕縛の次第を報告し、さうして蛭峰から、其掛引の宜しきを得た事を賞讚せられて立去つた、後には蛭峰と團友太郎と唯二人の差向ひである。

蛭峰は先づ友太郎の顏を見るに全くの美少年で、少年の正直と、少年の熱心とがおもてに現はれて居る、仲々恐ろしい國事犯とは思はれぬ、其れに先刻禮子から云はれた優しい慈悲深い言葉も耳の底にだ殘つて居るから、此人の今までに殆ど例のないほど柔和な聲を出して「貴方が團友太郎ですか」

友「ハイ」蛭「年は」友「十九歳」蛭「何の樣な所から拘引されました」友太郎はいさゝか力を込めて「オヽ私は、婚禮の席から拘引せられたのです、三年まへから許婚に成つて居る女と、今日 愈々いよ〳〵婚禮することになり、式場へ臨む前に、知人しりびとを饗應して居ますと其席へ捕吏が踏込んで參りました」何と自分の境遇に能く似た事ではあると蛭峰は又 いさゝか同情を深くした。

同情は好いけれど只此同情が何時まで續くかゞ疑問である、蛭「其れから、サアもつと言葉を續けなさい」友「此外に何も續けていふ事がありません、お聞下されば何事でも」尤も千萬な答へではあるが、何の意見も何の罪もないのに捕へられたのだから言立てることは一つもないのだ。蛭「貴方は横領者に使はれた事はありますか」

横領者とは拿翁なぽれおんの事である、王の位を横領したと云ふ所で王權黨は皆斯ういふのだ、友太郎が若し拿翁なぽれおん黨の者なら此言葉に幾分不快を感ずる所だけれど、彼れは何とも感ぜぬ「ハイ水兵になる願書を出したことはあります」蛭「貴方の政治上の意見は」友太郎は呆れた顏で「何で私に政治上の意見などがありませう、年が若くて未だ政治のことなど少しも分りません」蛭「政治上でなくとも、平生何か意見を持つて居ませう」友太郎は少し考へ「ハイ、父を大切に思ひます、雇主森江氏を敬ひます、さうそて許婚のお露を可愛いと思ひます、是れが若し意見ならば、平生の意見は唯だ是丈これだけです」

殆ど婀娜あどけない程の返事である、蛭峰は益々感心して決して此男は罪人で無いと思ひ、此樣なのは放免する方が却つて上長に贊成せられて自然自分の出世の端にもなり禮子にも喜ばれると思つた、おほやけには長官のお襃めを得、わたしには美人に嬉しい顏をされるは決して蛭峰の喜ばぬ所ではない、蛭「貴方は誰かに怨まれてゞも居るのですか」友「少しも怨まれる心當りは有りません」蛭「しか廿歳はたち未滿で船長にも成るといふのは異數の出世ですから、怨まぬ迄も羨む人はあるに違ひない、常に能く其邊氣を注けて居ねば何の樣な害に逢ふかも知れません」

尋問ではない寧ろ相談が忠告の樣である。

友「ハイ氣を注けましても、別に私を怨む人は決してないと思ひます」蛭峰は全く友太郎の清淨な事を信じた。「フム、貴方は全く正直な少年らしい、私も極寛大に、常の規則からは外れますけれど、ソレ是れを見せて上げます、此手紙を誰が書いたか心當りはありませんか」斯う云つて差出したのは彼の段倉が左の手でしたゝめた例の密告状である、友太郎は受取つて讀んだけれど、勿論わざと筆蹟を變へて書いて有るのだから心當りのある筈がない、友「誰が書いたか少しも分りません」蛭「しかし此手紙に書いてある事柄は事實ですか」友太郎はいさゝか眉根をひそめつつ「ハイ何うして此樣なことを知つた人がありますか、全く、餘ほど事實に近いのです」何たる有體ありていな返事だらう。蛭「では事實を有の儘に言つて御覽なさい」友太郎は森江氏に語つた通り、船長呉氏の死際に拿翁なぽれおんの居るエルバの島へ立寄つて、是をベルトラン將軍に渡せと小包を托せられた事を語り、「船長の言葉は總て命令と聞かねばなりませんから、私は其通りに致しました、さうしてエルバの島へ上陸し將軍に面會を求めますと容易に許される容子はなかツたのですが、若し面會が六かしい時は是を示せとて、一個ひとつの指環を渡されて居ましたから、其れを出して示しますと直に一室ひとまへ通されました」とて、面會の一部始終を述べ、最後に至り森江氏にさへ明かに言はなかつた祕密まで話し「船長の言葉には此小包さへ渡せば多分將軍から巴里へ送る手紙を托されるで有らうから、直に其手紙を持つて巴里へ行き、直々に宛名の人へ手渡しせよ、決して何人にも見せ、又は聞かせてならぬと言はれました、果して其言葉通り、面會の終る時に將軍から手紙を托されました故私は今日こんにち婚禮が濟めば明日直に其手紙を以て巴里へ立つ積でした、イヤ今も其積りです」

蛭峰は呟いた「アヽ貴方は無意識に國事犯の道具に使はれ掛けたのです、勿論貴方には罪はないのです、直に放免の手續きを運んで上げます」もとより直に放免せられるものとは期して居たけれど友太郎は眞實に感謝した「貴方の御親切はきもに銘じます」蛭「將軍の渡した其手紙といふは巴里の黨員と何事をか打合すものだらう、其手紙を私へお渡しなさい」友「う捕吏に取上げられました、其の貴方の卓子てーぶるの上に在るのが其の手紙です」蛭「オヤさうですか、巴里の誰れあに當たものか知らん」と蛭峰は呟いて卓子てーぶるから其手紙を取上て上封の宛名を見た。

若し雷が頭上に落ちても蛭峰は斯う迄は驚かぬであらう、彼は宛名を見て全く震へ上つた、何うだらう「ヘロン街十三番地にて野々内殿」とある、野々内とは自分の父なのだ。
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読書ざんまいよせい(056)

◎巌窟王(巖窟王)(上 001)
アレクサンドル・デュマ著
黒岩涙香譯
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【はじめに】
このファイルは、ソースが存在しているサイトの、html や、テキストそのままを、ルビなど「青空文庫形式」にできるだけ近づけて改編し、また、Unicode 化したものです。
【リソースサイト】
http://www.sm.rim.or.jp/~osawa/AGG/ (現在は。アクセスできない)

【著作権表示】
私訳のテキスト
テキストの配付・再利用は自由です。扱いは プロジェクト杉田玄白 方式に準じます。(中略)
著作権が切れたテキスト
(中略)著作権が切れたテキストは、自由に配布していただいてかまいません。ただし誤植チェックに関してはまだ不十分です
巖窟王(上 その1)
アレクサンドル・デュマ著
黒岩涙香譯

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2003年 12月 28日 初配布
2004年 10月 11日 34~61章追加
2025年 5月11日 文字コードを Unicode に変更など
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【テキスト中に現れる記号について】

ルビ
(例)衣嚢かくし

〳〵, 〴〵: 踊り字
複数文字の繰り返しを意味する。
(例)おの〳〵=おのおの。こと〴〵く=ことごとく。

[]:原文にない注記

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巖窟王 : 目次

アレクサンドル・デュマ (Alexandre Dumas, 18021870) 著、黒岩涙香 (18621920) 譯、史外史傳 巖窟王 ーー モンテ・クリスト伯 ーー (Le Comte de MonteCristo, 184445)。
出版社:愛翆書房。上卷:昭和二十三年十一月十日印刷,十一月十五日發行,定價百八十圓。下卷:昭和二十四年三月十日印刷,三月十五日發行,定價二百圓。
史外史傳 巖窟王
アレクサンドル・デュマ 著
黒岩涙香 譯
目次

◎目次
・前置
・上卷 主要人物

一 團友太郎と段倉
二 お露は情婦ではありません許婚です
三 父と子、類は友
四 お露と次郎
五 次郎は青くなつた
六 幾等でも奧の手を
七 筆と紙、筆と紙
八 婚禮の饗宴
九 何時までの分れ
一〇 蛭峰檢事補と米良田禮子
一一 宛名は誰れ
一二 危い處、危い處
一三 人間の日 照らぬ所
一四 梁谷法師
一五 國王陛下へ宛て
一六 出世と云ふ一語
一七 國王の御前
一八 青天の霹靂
一九 天運か天道か
二〇 顏中に黒い頬髭
二一 其顏を此窓から
二二 一種の優形紳士
二三 百日間
二四 監獄巡視
二五 二人の囚人
二六 例の五百萬圓
二七 此外の處分なし
二八 卅四號、廿七號
二九 怨に相當の復讐
三〇 自殺、自殺
三一 例の物音
三二 誰だ、誰だ
三三 穴の向ふと此方とで
三四 其穴から頭を
三五 己は伊國の法師梁谷だ
三六 何の樣な時節
三七 教師と弟子
三八 誰を怨めば好いでせう
三九 脱獄の再擧
四〇 藥を、藥を
四一 恩を返す道
四二 金貨にて凡そ二……
四三 扨て其大金
四四 一枚の白紙
四五 天の口、天の手
四六 第三囘の發病
四七 恐ろしい新思案
四八 袋の中
四九 監獄の墓地
五〇 一天墨の如く
五一 チブレン島
五二 我姿を鏡に寫した
五三 時が來た
五四 モンテ、クリスト島
五五 巖窟
五六 巖窟の祕密
五七 一廉の紳士と爲つて
五八 戀しい消息
五九 印度邊の豪族
六〇 竒癖の人
六一 贈り物
六二 暮内法師
六三 赤い皮の財布
六四 不正直のお蔭
六五 野西子爵
六六 嬉しいだらう
六七 尋常の法師では
六八 イヽエ即金で
六九 其代りにお願が
七〇 其れ程能く見破る事が
七一 森江商會
七二 無論金件です
七三 一艘の帆前船
七四 漏水が初まりました
七五 海の雇人
七六 船乘新八
七七 神さへ見捨てた
七八 一通の手紙を差出した
七九 此の短銃を何う成さる
八〇 一挺は私が用ひます
八一 不思議
八二 天の意
八三 嗚呼無人島
八四 此島に大變な豪い人が
八五 昔話の境遇
八六 心の誓ひ
八七 不老不死の靈液
八八 望遠鏡
八九 鬼小僧
九〇 猿の樣に身輕く傳ふて
九一 正直者か
九二 初めて怪物の顏を
九三 明朝の九時を以て
九四 巖窟島伯爵
九五 意の如くする積です
九六 辛い修業
九七 立派な彿國語
九八 何處に隱れて了つたか
九九 山賊の陷穽
一〇〇 捕はれて居るのは何處
一〇一 土牢と云ふ言葉に
一〇二 サンサバシヤンの山洞
一〇三 伯爵の巴里乘込
一〇四 五月廿一日
一〇五 森江大尉は此人です
一〇六 三個の碧精
一〇七 人を驚かす人
一〇八 金の捨て所
一〇九 嗚呼何の樣な對面
一一〇 戀か恨か
一一一 子爵夫人露子
一一二 窓から誰か
一一三 田舍の別莊
一一四 古い祕密が
一一五 此梯子は人殺しの
一一六 コルシカ人の仇討
一一七 其箱を深く埋め
一一八 美しい男の子
一一九 衣嚢かくしに小犬
一二〇 血の雨
一二一 神の言葉
一二二 鼻でも切つて
一二三 其樣な僅な金高
一二四 美しい栃色
一二五 大手腕
一二六 其んな恐しい毒藥が
一二七 世界の人
一二八 神の法律
一二九 一種の宣告
一三〇 鞆繪
一三一 此財布が忘れられやうか
一三二 柳田卿とは誰

巖窟王 : 前置

世に英雄は多いけれど拿翁なぽれおんの樣な其の出世の花々しい英雄は又と無い。さうして其亡び方の異樣に物凄い英雄も亦と無い。

彼は實に、第十九世紀の首途かどでに花を飾つた人である、第十九世紀と云ふ大舞臺に大活劇の幕を開いたのが彼だ。

彼は千七百六十九年に、ほとんど人の振返つて見さへせぬ、地中海の小島に生れて、三十の歳には早や全 彿國ふらんすを足下に踏まえる大將で有つた、十九世紀の幕の開いた千八百〇一年には、既に議政官の長と爲つて、國王の無い國に國王と同じ身分に爲つて居た。

猛りに猛つた民權論の眞盛りに、革命の眞只中に出て直ぐに其の民權論を蹂躙し、殆ど全國民の生殺與奪の權を一手に握るとは何たる怪物だらう、彼が其國の歴史に例の無い「皇帝」と云ふ尊號を得たのが、彼の卅六歳の年、即ち千八百〇四年で、民權も革命も總て彼の前にお辭宜じぎした、此時に當つてや彼は佛國の皇帝たるのみね無く、全歐洲の王である、殆ど人間の閻魔大王とも爲つて居た。日耳曼ぜるまんも、西班すぺいんも、阿蘭陀おらんだも、墺太利おうすとりいも、皆彼の配下に立ち、北方の強と云ふ可き露西亞ろしあまでも彼の鼻息のもと慴伏せふふくして居た。海を隔てた英國いぎりすより外には彼の意の儘に成らぬは無かつた、歴史家が此時の彼を指して「空前の大野心の空前の大成功」と云つたのは無理は無い、實に空前のみならず絶後の大成功である。

自分の兄弟三人を、サツサと諸國の王に取立て、尚ほ不足する所は手下の軍人で補つた、亂暴は亂暴であるが「國王製造者」と云ふ無類の異名を得たのは千古の竒觀と云ふ可しだ、全く隨意に國王を製造して居たのだ、大抵の國で野心家の野心と云へば、小さいのは獵官ぐらゐ、大きいとても總理大臣と云ふには過ぎぬ、此人逹に比ぶれば、何たる懸隔、雲泥などゝ云ふ言葉では追着かぬ、兵隊を議場に入れ喇叭の聲で議員の怒聲を埋めて置いて、一蹶して國家の長と爲り、再蹶して皇帝と爲り、三蹶して皇帝の上の皇帝と爲つた。

さうして其の四蹶目が面白い、自分の生れたコルシカ島から遠くも無いエルバ島へ、皇帝と云ふ尊號を持つたまゝ流されて蜑戸あまの焚く火の侘寢わびねに夢を照される人とは爲つた。

けれど四蹶には終らぬ、五蹶してエルバ島を脱するや備への嚴重なグレノブルの關所を單身で越えんとして番兵の前に立ち「防禦の武噐の無き皇帝を、汝射殺すて功名するは今ぞ」と告げた、膽力天地を呑むとは此事だらう、番兵が彼の膝に、彼の足に、すがり附いたもうべである、佛國全土の民は箪食たんし壺漿こしやうせぬばかりに歡迎したのもうべである、新王 路易るい十八世が一夜の中に夜逃げしたのも亦 うべである。

是れと云ふのも畢竟は、天が此の逞しい俳優をして大詰の一幕ウヲーターローの敗軍から、英國の軍艦で、セントヘレナの孤島に流さるゝ英雄の末路を演じさせ「私慾より上に脱せざる人には永久の成功無し」と云ふ大なる教訓をのこさんが爲で有つたのであらう、彼は多くの英雄豪傑と同じく、偶然の人間では無い、天意の道具に使はれた特製の圖面である。

こゝに説き出す巖窟王の實談は、此の拿翁なぽれおんの話では無い、全く別の人、別の事柄であるけれど、拿翁なぽれおんと少からぬ關係がある、此話の始まるのが、丁度 拿翁なぽれおんがエルバ島を脱した千八百十五年二月廿九日の事で、此實談の主人公が、其島へ立寄つて拿翁なぽれおんに聲を掛けられて來た時からの話である。

而も此人や彼と同じく、亦偶然の人間では無く、天の意を圖解する天の道具かと怪しまれるのだ、拿翁なぽれおんが歴史の表面に活動する間に、此人は暗黒なる裏面に人間界の鬼の樣に働いて居た、さうして其一身の波瀾、其の閲歴と事功との光怪、殆ど拿翁なぽれおんと對す可き程の者で而も人物の天性、醇の醇なることに至つては、彼れ翁輩をうばいと比す可きで無い、唯翁は野心的に進み、此人は人情的に進んだけに、翁は知られ、此人は隱れ、翁は輝き、此人は曇り、從つて舞臺も演劇も全く違つて居る、彼の人は雷の如く陽氣にして此人は地震の如く沈痛である。

唯だ發端の話頭わとういさゝか翁がエルバ島を脱する時の事件と關聯する所が有つて、彼を知らねば之を解するの不便なるが爲めに、愈々いよ〳〵話に入らうとする前に斯くは記して置くのである。

史外史傳「巖窟王」其の巖窟とてもエルバや、コルシカと同じ地中海の一島で又遠くは離れて居ぬ、舞臺とは、西洋から指して東洋と云ふ土耳古とるこへんより伊國いたりやを經て佛國の中心歸して居る、或人は之れを「神侠傳」と云ひ或人は「復讐竒談」と云ひ、譯者は之を「巖窟王」と云ふ、いづれの名も此人の一端を寫したに過ぎぬ、全體を讀終れば適當な概念が自ら讀者の胸に浮ぶであらう。

譯 者 識

巖窟王 : 上卷 主要人物

だん友太郎ともたらう(エドモン・ダンテス)
數竒の運命とたゝかひぬく本篇の主人公。後の巖窟島伯爵(モンテ・クリスト伯)。
つゆ(メルセデス)
友太郎の許嫁、友太郎の入獄中次郎の妻となる。
次郎じらう(フエルナン)
スペイン村の漁師、後西班牙戰爭の功あつて野西子爵(モルセール子爵)となる。
野西のにし武之助たけのすけ(アルベール・ド・モルセール)
次郎とお露の間に生れた息子、若き子爵。
段倉だんぐら 喜平次きへいじ(ダングラール)
森江氏持船巴丸(フアラオン丸)の會計主任。後次郎と共に西班牙戰爭で巨利を博し大銀行家となり男爵を贖ふ。
蛭峰ひるみね重輔しげすけ(ヴイルフオール)
野々内彈正の息子で若き檢事補。父とは反對に熱心な王黨の支持者、後の檢事總長。
梁谷はりや法師(フアリヤ法師)
友太郎が獄中にて會える博學多才なイタリヤの司祭。友太郎生涯の恩師であり又恩人。
森江もりえ良造りやうざう(モレル)
マルセーユの船主、友太郎の主人にして又恩人。
森江もりえ眞太郎しんたらう(マクシミリヤン・モレル)
森江氏の長男で陸軍々人。
野々内ののうち彈正だんじやう(ノワルテイエ)
蛭峰の實父にてナポレオン黨の有力な鬪士。
粕場かすば毛太郎次けたらうじ(カドルツス)
友太郎の友人にてマルセーユの仕立屋、後に旅籠屋の主人。
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読書ざんまいよせい(055)

◎噫無情(001)


噫無情
ヸクトル、ユーゴー 著
黒岩涙香 譯

【はじめに】
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【テキスト中に現れる記号について】
ルビ:
(例)衣嚢かくし

〳〵: 踊り字
複数文字の繰り返しを意味する。
(例)ボロ〳〵=ボロボロ。

[]:底本の誤りなどの注記

噫無情 : 目次
タイトル:噫無情 (Les Misérables, 1862)
著者:ヸクトル、マリー、ユーゴー (Victor Hugo, 1802-1885)
譯者:黒岩涙香 (1862-1920)
底本:縮刷涙香集第二編縮刷『噫無情』
出版:扶桑堂
履歴:大正四年九月十五日印刷,大正四年九月十八日發行,大正七年七月十七日廿二版(實價金壱圓六拾錢)

目次
* 小引
* 一 一人の旅人りよじん
* 二 其家をのぞき初めた
* 三 高僧と前科者
* 四 銀の皿、銀の燭臺
* 五 神の心と云ふ者だ
* 六 寢臺ねだいの上に起直り
* 七 社會の罪
* 八 恍として見惚みとれた
* 九 恐る可き分岐點
* 十 愚と云はふか、不幸と云はふか
* 十一 ひどいなア、ひどいなア
* 十二 華子
* 十三 小雪
* 十四 斑井まだらゐ父老ふらう
* 十五 蛇兵太じやびやうた
* 十六 星部ほしべ父老ふらう
* 十七 死でも此御恩は
* 十八 夫がなくて兒供が
* 十九 責道具
* 二十 畜生道に落ちた
* 二十一 警察署
* 二十二 市長と華子
* 二十三 運命の網
* 二十四 本統の戎瓦戎ぢやん、ばるぢやん
* 二十五 不思議な次第
* 二十六 難場の中の難場
* 二十七 永久の火
* 二十八 天國の惡魔、地獄の天人
* 二十九 運命の手
* 三十 聞けば兒守歌である
* 三十一 重懲役終身に
* 三十二 合議室
* 三十三 傍聽席 一
* 三十四 傍聽席 二
* 三十五 傍聽席 三
* 三十六 傍聽席 四
* 三十七 傍聽席 五
* 三十八 市長の就縛 一
* 三十九 市長の就縛 二
* 四十 市長の就縛 三
* 四十一 入獄と逃亡 一
* 四十二 入獄と逃亡 二
* 四十三 むかし話
* 四十四 再度の捕縛、再度の入獄
* 四十五 獄中の苦役
* 四十六 老囚人の最後
* 四十七 X節クリスマスの夜 一
* 四十八 X節クリスマスの夜 二
* 四十九 X節クリスマスの夜 三
* 五十 X節クリスマスの夜 四
* 五十一 X節クリスマスの夜 五
* 五十二 X節クリスマスの夜 六
* 五十三 X節クリスマスの夜 七
* 五十四 客と亭主 一
* 五十五 客と亭主 二
* 五十六 客と亭主 三
* 五十七 も此老人は何者
* 五十八 隱れ家 一
* 五十九 隱れ家 二
* 六十 隱れ家 三
* 六十一 隱れ家 四
* 六十二 落人おちうど
* 六十三 落人おちうど
* 六十四 何物の屋敷 一
* 六十五 何物の屋敷 二
* 六十六 尼寺 一
* 六十七 尼院 二
* 六十八 尼院 三
* 六十九 尼院 四
* 七十 本田圓ほんだまるし
* 七十一 父と子
* 七十二 本田守安 一
* 七十三 本田守安 二
* 七十四 ABCアーベーセーの友
* 七十五 第一、第二の仕事
* 七十六 異樣な先客
* 七十七 青年の富
* 七十八 公園の邂逅めぐりあひ
* 七十九 白翁はくおう黒姫くろひめ
* 八十 白翁と黒姫 二
* 八十一 白翁と黒姫 三
* 八十二 白翁と黒姫 四
* 八十三 神聖な役目
* 八十四 四國兼帶の人 一
* 八十五 四國兼帶の人 二
* 八十六 四國兼帶の人 三
* 八十七 四國兼帶の人 四
* 八十八 四國兼帶の人 五
* 八十九 四國兼帶の人 六
* 九十 四國兼帶の人 七
* 九十一 四國兼帶の人 八
* 九十二 四國兼帶の人 九
* 九十三 陷穽おとしあな
* 九十四 陷穽おとしあな
* 九十五 陷穽おとしあな
* 九十六 陷穽おとしあな
* 九十七 陷穽おとしあな
* 九十八 陷穽おとしあな
* 九十九 陷穽おとしあな
* 百 陷穽おとしあな
* 百一 陷穽おとしあな
* 百二 町の子
* 百三 十七八の娘
* 百四 私しと一緒
* 百五 愛 一
* 百六 愛 二
* 百七 愛 三
* 百八 庭の人影 一
* 百九 庭の人影 二
* 百十 庭の人影 三
* 百十一 愛の天國
* 百十二 無慘
* 百十三 千八百三十二年
* 百十四 容子ありげ
* 百十五 疣子と手鳴田
* 百十六 家はからである
* 百十七 死場所が出來た
* 百十八 一揆軍 一
* 百十九 一揆軍 二
* 百二十 軍中雜記 一
* 百二十 軍中雜記 一
* 百二十 軍中雜記 一
* 百二十一 軍中雜記 二
* 百二十一 軍中雜記 二
* 百二十一 軍中雜記 二
* 百二十一 軍中雜記 二
* 百二十一 軍中雜記 二
* 百二十二 軍中雜記 三
* 百二十二 軍中雜記 三
* 百二十二 軍中雜記 三
* 百二十二 軍中雜記 三
* 百二十二 軍中雜記 三
* 百二十三 軍中雜記 四
* 百二十四 軍中雜記 五
* 百二十五 軍中雜記 六
* 百二十六 軍中雜記 七
* 百二十七 軍中雜記 八
* 百二十七 軍中雜記 八
* 百二十八 軍中雜記 九
* 百二十八 軍中雜記 九
* 百二十八 軍中雜記 九
* 百二十八 軍中雜記 九
* 百二十八 軍中雜記 九
* 百二十九 蛇兵太の最後
* 百三十 守安の最後
* 百三十一 エンジラの最後
* 百三十二 堡壘の最後
* 百三十三 哀れ戎瓦戎 一
* 百三十四 哀れ戎瓦戎 二
* 百三十五 哀れ戎瓦戎 三
* 百三十六 哀れ戎瓦戎 四
* 百三十七 哀れ戎瓦戎 五
* 百三十八 哀れ戎瓦戎 六
* 百三十九 哀れ戎瓦戎 七
* 百四十 哀れ戎瓦戎 八
* 百四十一 哀れ戎瓦戎 九
* 百四十二 哀れ戎瓦戎 十
* 百四十三 哀れ戎瓦戎 十一
* 百四十四 哀れ戎瓦戎 十二
* 百四十五 哀れ戎瓦戎 十三
* 百四十六 哀れ戎瓦戎 十四
* 百四十七 哀れ戎瓦戎 十五
* 百四十八 最後 一
* 百四十九 最後 二
* 百五十 最後 三
* 百五十一 最後 四
* 百五十二 大團圓

噫無情 : 小引

■「噫無情」と題し茲に譯出する小説は、ヸクトル、マリー、ユーゴー先生の傑作『レ、ミゼラブル』なり
■著者ユーゴー先生は多くの人の知れる如く、佛國の多恨多涙の文學者にして又慷慨なる政治家なり、詩、小説、戯曲、論文等に世界的の傑作多し、先生千八百二年に生れ八十四歳の壽を以て千八百八十五年(明治十八年)に死せり
■『レ、ミゼラブル』は先生が國王ル井、ナポレオンの千八百五十年の非常政策の爲に國外に放逐せられ白耳義に流竄せる時に成りしと云へば、即ち五十歳以上の時の作なり、最も成熟せし著作と云ふ可し(先生が初めて文學者として世に著はれしは其十四歳の時に在り)
■「ミゼラブル」ちは、英國にては視るに忍びざる不幸の状態を指すの語なり、佛語にては多く『身の置所も無き人』と云ふ意味に用ゐらる、即ち社會より窘害せられて喪家の犬の如くなる状態に恰當する者の如し、我國の文學者が一般に『哀史』と云ふは孰れの意に取りたるやを知らずと雖も先生が之を作りたる頃の境遇より察すれば前の意よりも後の意に用ひたる者なるが如くに察せらる
■余先頃、ヂュマのモント、クリストーを巌窟王と題せしに或人は巌窟王の音が原音に似たりとて甚だ嘆稱せられたり、余は爾まで深く考へたるに非ざりしを、勿怪の幸ひと云ふ可し、今『レ、ミゼラブル』を『噫無情』と題し、又音の似通ひたりと云ふ人あり、然れども之も爾うまで考へしには非ず、唯だ社會の無上より、一個人が如何に苦めらるゝやを知らしめんとするが原著者の意なりと信じたれば、他に適切なる文字の得難さに斯くは命名したるなり
■原書はユーゴー先生の生存中に幾版をも重ねたれば先生親から幾度も訂せし者と見ゆ、英譯にも數種あり、余の有せる分のみにても四種に及ぶ、猶ほ耳に聞きて未だ手にせざる分も無きに非ず、是等を比較するに、或者は高僧ミリールの傳を初に置き、或る者はヂャン、ヷルヂャンを初めに置きたるが如き最も著るしき相違なり、思ふにミリールは先生が理想とせし人なる可ければ卷首に之を掲ぐるが當然なる可きも、晩年に及び讀者に與ふる感覺の如何に從ひて次章に移したるならんか、余は(新聞紙に掲ぐるには)後者の順序が面白かるべきを信じ、其れに從ふ事としたり
■譯述の體裁は余が今まで譯したる諸書と同く、余が原書を讀て余の自ら感じ得たるが儘を、余の意に從ひて述べ行く者なれば、飜譯と云はんよりも人に聞きたる話をば我が知れる話として人に話すが如き者なり、若し此を讀みて原書に引合せ、以て原書を解讀する力を得んと欲する人あらば失望す可し、斯かる人に對しては、余は切に社友山縣五十雄君の英文研究録を推薦す(内外出版會社の出版にて一册定價二十錢、英米の有名なる作者の詩歌及び短詩を親切に飜譯し註釋したる者なり)
■若し原書を句毎に譯述すれば五百回にも達す可し、少くとも三百回より以下なる能はず、然れども余は成る可く一般の讀者が初めの部分を記憶に存し得る程度を限りとし百五十回乃至二百回以内に譯し終らんことを期す
■ユゴー先生が此書に如何の意を寓したるやは余不肖にして能く知らざるなり、之を學[※;1文字不明。兄?]諸氏に質すに、社會組織の不完全にして一個人が心ならざる境遇に擠陷さるゝを慨したるなりと云ふ人多し、多分は然るなる可し、先生の自ら附記したる小序左の如し
△法律と習慣とを名として、社會の呵責が此文明の眞中に人工の地獄を作り、人の天賦の宿命をば人爲の不運を以て妨ぐることの有る限りは
△現世の三大問題、即ち勞働世界の組織不完全なるに因する男子の墮落、饑渇に因する女子の滅倫、養育の不足の爲の兒童の衰殘、を救ふの方法未だ解釋せられざる限りは
△心の饑渇の爲に衰死する者社會の或部分に存する限りは
△以上を約言して廣き見解に從ひ、世界が貧苦と無學とを作り出す限りは
則ち此種の書は必要無きこと能ばざる也
蓋しル井、ナポレオンが非常政策を發する前、佛國には社會主義の勃興あり、暗に政府及び朝廷を驚かしめたり、先生は是れより先き、文勲を以て貴族に列せられたるも深かく社會黨の運動に同情を寄せ、王黨を脱して共和黨に入り大に畫策する所ありたれば、社會下層の無智と貧困とを制度習慣の罪と爲し、其の如何に凄慘なるやを示さんと欲したる者ならんか、先生が流竄の禍を買ひたるも畢竟は斯る政治上の意見の爲なり、若し我が日本に『レ、ミゼラブル』の一書を飜譯する必要ありとせば、必ずや人力を以て社會に地獄を作り、男子は勞働の爲に健康を損し、女子は饑渇の爲に徳操を失し、到る處に無智と貧苦との災害を存する今の時にこそ在るなれ、唯だ余がユーゴー其人に非ざるを悲しむ可しとす

譯 者 識
噫無情 : 一 一人の旅人りよじん
縮刷 噫無情ジーミゼラブル(前篇)
佛國 ユーゴー先生 著
日本 黒岩涙香 譯
彿国ふらんすの東南端プロボンと云ふ一州にダイン(Digne)と稱する小都會がある
別に名高い土地では無いが、千八百十五年三月一日、彼の怪雄 拿翁なぽれおんがエルバの孤島を脱出ぬけだしてカン(Canes)の港に上陸し、巴里ぱりーの都を指して上つたとき、二日目に一泊した所である、彼れが檄文を印刷したのもこゝ、彼れの忠臣ベルトラン將軍が彼より先に幾度いくたびか忍び來て國情を偵察したのもこゝである
此外に此小都會の多少人に知られて居るのは徳望限り無き高僧 彌里耳みりいる先生が過る十年來土地の教會を管して居る一事である

*   *   *   *   *
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