本職こぼれはなし(015)

 秋の研究会発表第1段階が無事終了。研究会の後に、戸隠方面へ足を伸ばした。鏡池からの眺望は、雲に隠れて眺望はいまいちだっかが、それでも、雲の合間に戸隠の険しい岩峰を垣間見ることができた。

 発表した、第18回全日本民医連小児医療研究発表会発表スライド(PDF)と、発表原稿は以下のとおりである。

<スライド01>
 大阪きづがわ医療福祉生協西成民主診療所の大里光伸です。昨夜の懇親会、楽しかったですね。これで、研究会から得られるものは充分と帰ろうとと思いましたが、本日の発表残っていたのに気づき、ここ演台に立たせてもらいます。まず、最初に、このような全体会の場で発表の機会を与えられたことに、関係各位のみなさんに深く感謝申し上げます。今回の発表は、特定の企業・団体と利益相反はありません。
<スライド02>
 対象と方法です。
 ご承知のように、小児のA群溶血性連鎖球菌感染症(以下、溶連菌感染症と略します)は、小児期における Common Disease のひとつで、当法人の運営する病児保育「まつぼっくり」においても、一定数の患児が見られ、その後の治療につなげることの重要性はいうまでもありません。今回の発表では、抄録の例数を増やして、2024年1月から7月まで、溶連菌感染症と診断した症例22例を対象としました。ただし、溶連菌迅速キットのみの陽性例と、他医療機関での診断例は除外しました。検査機器は、Abbott 社の、「ID NOW™ ストレップ A2」キットを用いました。スライドは、溶連菌PCRの陽性と陰性の測定機器が示す画面です。ちなみに測定機器そのものは、COVID19-9 流行当初に、大阪府の助成を受け、購入したものです。
<スライド03>
 結果のスライドです。
 溶連菌PCR陽性児の年齢分布です。病児保育利用という特質から、4-5才にピークがありますが、従来、本症の発生が少ないとされる低年齢児にも一定数あることがうかがえます。
<スライド04>
 結果のスライドが続きます。
 症状は、ほぼ全例に発熱を認めたほかは、特有の発疹、イチゴ舌などは、半数程度にしか見られず、身体所見のみの診断は、一定困難があることが分かります。家族内感染は、2家族、3例にみられました。また、治療後ないし、一定の時期を経てのPCR陽性例は、5例あり、いわゆる「持続的感染」が存在することが示唆されます。
<スライド05>
 持続感染と家族内感染の症例を提示します。
 4才11ヶ月 男児
 1月発熱時にPCRが陽性、抗生剤 5日投与しましたが、陽性所見が続くため、さらに10日投与しました。この間は、頻回の発熱のため、病児保育利用が続いていましたが、以来利用は見られなくなりました。しかし7月にも、発熱時にPCR陽性、AMPC投与するも、解熱せず、マクロライド系のクラリスロマイシンを投与し、改善をみました。
<スライド06>
 5才4ヶ月 男児
 品胎同胞および本人も、数日のインターバルで感染しましたが。腎炎の発症はなく、その後の発熱時にも、PCRは陰性でした。今回の対象ではありませんが、同胞第3子がその後、急性糸球体腎炎が合併し、入院加療となりました。
<スライド07>
 考察にうつります。
 左図の大阪府における2024年の発生状況で示すように今年は溶連菌感染の流行年でした。昨年までは、右図のようなスティックによる迅速検査で診断していましたが、臨床症状は典型的なのに、検査では陰性となったり、目視による判定だけでは、判断がつきにくい例も散見されました。
<スライド08>
 文献的にも、PCR判定は、細菌培養法に比して、陽性率、陰性率ともによく一致するとあります。また従来の迅速検査よりも感度が高いとされています。
<スライド09>
 結論と課題です。
・病児保育のトリアージにおいては、短時間で正確な検査結果を得られることが必須でありますが、不要な抗生物質投与を避ける意味でも、今回のPCR法は有用性が高いと思っています。
・感染後の合併症リスクとして、急性糸球体腎炎は、こんにちなおもあり、十分な経過観察と保護者への丁寧な説明が必須です。
・再発再燃する溶連菌感染症には、今回は、AMPC 2クール投与までとし、その後は症状がない場合は経過観察としましたが、引き続き治療法の検討の予定です。
<スライド10>
 と、ここまでが発表のいわば「枕」でして、本題はこれからで、あと三時間ほど心してお聞きください。民医連小児科では、世紀の変わり目、2000年に第1回の小児科研究集会が鹿児島ではじまり、メーリングリストも、それを機会に発足、早いもので四半世紀になります。そのリストへの案内とお誘いをいたします。同じ内容は、前もってお配りした案内用紙にありますので、ご覧ください。印刷したQRコードでは直接、申込みメールが立ち上がります。
<スライド11>
 実は、今回のきっかけとなったのは、番場実行委員長が興味を持っていただいたことと、リストの過去の投稿を「溶連菌感染」の項目で検索したことから始まりました。
<スライド12>
 そのなかで、東京の大久保さんの小児科学会への発表文が見つかりました。リストで共同研究を呼びかけられた、その成果です。
<スライド13>
 また、大久保さんはリストの紹介を、「民医連共済だより」にご投稿いただきました。どうぞ、ここ会場におられる方はじめ、院所にお帰りになっても周りの小児科関係者をリストにお誘いいただくようお願いします。ここ、長野の地は、高校時代から、北アルプスの山々を猟歩し、またまだ小児科医としてひよっこの時代、全国保育団体連合会の大会が山ノ内町であり、病児保育分科会で助言者の任にあり、五年間夏の時期に湯田中まで通ったいわば青春の地です。その長野で発表できたことは望外の喜びとともに、民医連小児科のたゆまぬ発展を祈念し、発言を終わります。ご清聴ありがとうございました。