しばらく更新が滞っていたが、テキスト中心の記事ゆえ、著作権の切れた著作のアップをボツボツ再開…今更、「勧善懲悪」の「八犬伝」ではあるまいにと思ったが、HTML の ruby タグに興味を持ち、テキスト処理での正規表現からの《》→ ruby タグへの変換とエディタでの実装がまあまあうまくいったので…全百八十回、いつまでかかるのやら…焦らずに…
南総里見八犬伝のテキストとして、「ふみくら」氏のサイトがある。残念ながら、第30回までであり、HTML 版はコードが、Shift-JIS である。そこで、「序文」類を、UNICODE に変換し、掲載する。
また 本文の第2回目以降は、今を去る20年前(校正:2005年3月25日とある)に、「ちまえの館」さんが、アップされたものを、基本的に底本とし、随時岩波文庫版(新字表記)および、国立国会図書館アーカイブを参考とした。図は,多くは岩波文庫版から掲載した。
底本などの漢字を旧字体に統一した。
ルビは、ruby タグを用いた。
〳〵:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)、濁点付きの二倍の踊り字は「〴〵」とした。
UNICODE 表にない漢字は、ネコのおやつサイト(南総里見八犬伝翻刻)の文字データを利用した。
あらためて、「ふみくら」さん、「ちまえの館」さん、「ネコのおやつ」さんのご尽力に敬意を表す。
以上、各回ごとの注記は基本的には省略する。
『南總里見八犬傳』第一回より「序文」など
【外題】
里見八犬傳 肇輯 巻一
【見返】
曲亭主人藁本\南總里見八犬士傳\柳川重信像\山青堂
【序】書き下し
八犬士傳序[噪野風秋]
初め里見氏の安房に興るや、徳誼以て衆を率ゐ、英略以て堅を摧く。二總を平呑して、之れを十世に傳へ、八州を威服して、良めて百將の冠たり。是の時に當て、勇臣八人有り。各犬を以て姓と爲す。因て之を八犬士と稱す。其れ賢虞舜の八元に如ずと雖ども、忠魂義膽、宜しく楠家の八臣と年を同して談ずべきなり。惜い哉筆に載する者當時に希し。唯だ坊間の軍記及び槇氏が『字考』、僅かに其姓名を識るに足る。今に至て其の顛末を見る由し無し。予嘗て之を憾む。敢て残珪を攻めんと欲す。是より常に舊記を畋獵して已まず。然ども猶考据有ること無し。一日低迷して寝を思ふ。䁿聴の際だ、客南總より來る有り。語次八犬士の事實に及ぶ。其の説軍記傳所の者と同からず。之を敲けば則ち曰く、「曾て里老の口碑に出たり。敢て請ふ主人之を識せ」予が曰「諾、吾れ將に異聞を廣ん」と。客喜て而して退く。予之を柴門の下りに送る。臥狗有り。門傍に在り。予忙として其の尾を踏めば、苦聲倏ち足下に發る。愕然として覺め來れば、則ち南柯の一夢なり。頭を回して四下を覽れば。茅茨客無く。柴門に狗吠無し。言熟〳〵客談を思へば、夢寐と雖ども捨つべからず。且に之を録せんとす。既にして忘失半ばに過ぐ。之を何奈すること莫し。竊かに唐山の故事を取りて。撮合して以て之を綴る。源禮部が龍を辨ずるが如きは。王丹麓が『龍經』に根つく。靈鴿書を瀧城に傳るが如きは。張九齢の飛奴に擬す。伏姫八房に嫁するが如きは。高辛氏其の女を以て槃瓠に妻すに傚へり。其の他毛擧に遑あらず。數月にして五巻を草す。僅に其の濫觴を述て。未だ八士の列傳を創せず。然と雖ども書肆豪奪して諸を梨棗に登す。刻成て又其の書名を乞ふ。予漫然として敢て辭せず。即ち『八犬士傳』を以て之に命す。
文化十一年甲戌秋九月十九日。筆を著作堂下の紫鴛池に洗ぐ。
簑笠陳人觧撰
[曲亭馬琴著作堂之印][乾坤一草亭]
【序】原文
八犬士傳序[噪野風秋]
初里見氏之興於安房也。徳誼以率衆。英略以摧堅。平呑二總。傳之于十世。威服八州。良爲百將冠。當是時。有勇臣八人。各以犬爲姓。因稱之八犬士。雖其賢不如虞舜八元。忠魂義膽。宜與楠家八臣同年談也。惜哉載筆者希於當時。唯坊間軍記及槇氏字考。僅足識其姓名。至今無由見其顛末。予嘗憾之。敢欲攻残珪。自是常畋猟舊記不已。然猶無有考据。一日低迷思寝。䁿聴之際。有客自南總來。語次及八犬士事實。其説與軍記所傳者不同。敲之則曰。曽出于里老口碑。敢請主人識之。予曰諾。吾將廣異聞。客喜而退。予送之于柴門下。有臥狗。在門傍。予忙乎踏其尾。苦聲倏發于足下。愕然覺來。則南柯一夢也。回頭覽四下。茅茨無客。柴門無狗吠。言熟々思客談。雖夢寐不可捨。且録之。既而忘失過半。莫奈之何。竊取唐山故事。撮合以綴之。如源禮部辨龍。根于王丹麓龍経。如霊鴿傳書於瀧城。擬張九齢飛奴。如伏姫嫁八房。倣高辛氏以其女妻槃瓠。其他不遑毛擧。數月而草五巻。僅述其濫觴。未創八士列傳。雖然書肆豪奪登諸梨棗。刻成又乞其書名。予漫然不敢辞。即以八犬士傳命之。
文化十一年甲戌秋九月十九日。洗筆於著作堂下紫鴛池。
簑笠陳人觧撰
[曲亭馬琴著作堂之印][乾坤一草亭]
【再識】
世にいふ里見の八犬士は、犬山道節〔乳名道松〕、犬塚信乃〔乳名志之〕、犬坂上毛〔乳名毛野〕、犬飼見八〔乳名玄吉〕、犬川荘佐 、犬江親兵衞〔乳名真平〕、犬村大角〔乳名角太郎〕、犬田文吾〔乳名小文吾〕、則是なり。その名軍記に粗見えて、本貫終始を審にせず。いと惜むべき事ならずや。よりて唐山高辛氏の皇女、槃瓠〔犬の名也〕に嫁したる故事に做ふて、個小説を作設、因を推、果を説て、婦幼のねふりを覺すものなり。
肇輯五巻は、里見氏の、安房に起れるよしを演。亦是唐山演義の書、その趣に擬したれば、軍記と大同小異あり。且狂言綺語をもてし、或は俗語俚諺をまじへ、いと嗚呼しげに綴れるは、固より翫物なれば也。
この書第八回、堀内蔵人貞行が、犬懸の里に雛狗を獲たる條より、第十回、義実の息女伏姫が、冨山の奥に入る條まで、これ全傳の發端也。しかれども首尾具足して、全體を闕ことなし。二輯三輯に及ては、八人ンおの〳〵列傳あり。來ん春毎に嗣出して、全本となさんこと、両三年の程になん。
簑笠陳人再識
【目録】
有像南總里見八犬傳肇輯總目録
第一回
季基訓を遺して節に死す 白龍雲を挾んで南に歸く
第二回
一箭を飛して侠者白馬を誤つ 兩郡を奪ふて賊臣朱門に倚る
第三回
景連信時暗に義實を阻む 氏元貞行厄に舘山に從ふ
第四回
小港に義實義を集む 笆の内に孝吉讐を逐ふ
第五回
良將策を退けて衆兵仁を知る 靈鴿書を傳へて逆賊頭を贈る
第六回
倉廩を開いて義實二郡を賑す 君命を奉りて孝吉三賊を誅す
第七回
景連奸計信時を賣る 孝吉節義義実に辭す
第八回
行者の石窟に翁伏姫を相す 瀧田の近邨に狸雛狗を養ふ
第九回
盟誓を破つて景連兩城を圍む 戲言を信じて八房首級を獻る
第十回
禁を犯して孝徳一婦人を喪ふ 腹を裂きて伏姫八犬子を走らす
肇輯題目通計一十回完
【口絵】
浪中龍門に上り去ことを得て 歎ぜず江河歳月の深を
里見治部大輔義實
碓子尓舂忍光八
難波江乃始垂母辛之河尓加久尓世波 著作堂
金碗八郎孝吉
周公恐懼す流言の日
王莽謙恭す士に下る時
若し當年にして身便ち死せ使めば
今に至りて真偽誰知ること有らん
白居易讀史の詩
山下柵左衞門尉定包
神餘長挾介光弘が嬖妾玉梓
何事をおもひけりともしられしな えみのうちにもかたなやはなき 衣笠内府
安西三郎太夫景連
麻呂小五郎信時
堀内藏人貞行
朴平
無垢三
杉倉木曽介氏元
深宮に飽食の獰を恣にし
毯に臥し氈に眠て慣れて驚かず
却て簾を捲く人に放出されて
宜男花下新晴に吠ゆ
元貢性之詩
伏姫
里見義實の愛犬八房
正夢と置行鹿や照射山 東岡舎羅文
金碗大輔孝徳
「八犬子髫歳白地蔵之圖」
平居恃むこと勿れ汝か青年なるを
此青年に趁て好く勉めよや旃
あげまきはあとだにたゆる庭もせに おのれ結べとしげる夏草 定家卿和歌
犬山道松 犬飼玄吉 犬川荘助 犬田小文吾 犬坂毛野 犬村角太郎 犬江真平 犬塚信乃 ヽ大和尚
【広告】
曲亭家方賣剤畧目[乾坤一草亭]
○巻端半頁の餘帋あるをもて営生要緊の旨を録して恭しく四方の君子に告奉ること左の如し
家傳神女湯 一包百銅 こはこの作者が家傳の良方婦人諸病の神薬にしてわきて産前産後ちのみちに即功あり。
さるにより相傳五世に及て家に難産夭折の婦人あることなし。用ひやうはつばらにつゝみ紙にしるしつ。ちかき比はいよゝます〳〵その功抜群自餘の賣剤にまされるよしにて求め給ふ君子少からず。いと歡しきことになん。
つぎ虫の妙薬 一包六十四銅 半包三十二銅 婦人毎月つきやくになり給ふときつぎむしにいためらるゝに用ひて甚妙也。又産後におり物くだりかぬるによし。すべて月やく不順に功あり。
精製竒應丸 大包〔二百粒余入〕代弐朱 中包〔三十六りう入〕代一匁五分 小包〔十一粒入〕代五分 〔但五分より下小うり不仕候〕
世にきおふ丸夛しといへども製方等閑にしてやくしゆに極品をえらまざれは竒應丸の名ありといふともきおふ丸の功のうなし。こゝに製するところ薬種のあたひをいとはず分量すべて法にしたがひ製法尤つゝしめり。是をよのつねの竒應丸にくらぶれはその功百倍万倍也。
諸病針灸ほどこし療治 毎月七日 廾七日
是まで廾三日なりしを廾七日とす。朝四ッときより。所望の人々は入來せよ。いさゝかも謝物はうけ不申。こは孩児が宿願によりその師小坂先生出席点誌す。
右製藥弘所並に施療 江戸元飯田町中坂下南側四方みそ店向 瀧澤氏精製 [曲亭]
取次所 △大坂心齋橋筋唐物町南へ入 書林河内屋太介 △江戸芝神明前 書肆いつみや市兵衞
○招牌及報条能書必乾坤一草亭の印記あり此印なきは偽剤に係る
参考】
・青空文庫 幸田露伴「馬琴の小説とその当時の実社会」
・青空文庫 内田魯庵「八犬伝談余」
・当サイト 内田魯庵抄訳「南総里見八犬伝」




