デイケアへ通所するIさん、送迎の車から降りても、どこか足元が覚束ない。しばらく診ていないので、「フレイル」が進行したのかなと思いきや、ズボンのゴムが緩んでいた。「Iさん、デイケア」でちゃんと直してもらいや」
「フレイル」という言葉、シェイクスピアの時代からあったようだ。悲劇「ハムレット」で王子ハムレットの母が父王の死後、義理の弟と再婚していたのに憤り、「弱きもの、汝の名は女なり!(Frailty thy name is woman !)と出てくる。Frailty は、「脆い」と訳す方が適切だろう、としんぶん赤旗日曜版 2023年12月3日づけの連載記事「松岡和子のとっておきシェイクスピア」で指摘する。実は、ハムレットの元本は三種類あり、一番古い版でも掲載されているので、一種の慣用句、格言めいたものなのであろう。
「もろきもの、おまえの名は女!(Frailty thy name is woman !)」が現代でも通用するかは、当方の関知するところではない。
If it were done when ‘tis done, then ‘twere well
It were done quickly: if the assassination
Could trammel up the consequence, and catch
With his surcease success; that but this blow
Might be the be-all and the end-all here,
もし、やってしまってそれですべて決着がつくのなら、
今すぐやったほういいだろう、
もし、暗殺で一切のけりがつくなら、
それで王座につけるのなら、
この世のこの一撃で、一切合財の始末がつくわけだ
「マクベス」第1幕第7場
と、独白したのかもしれない。
Methought I heard a voice cry ‘Sleep no more!35
Macbeth does murder sleep’, the innocent sleep,
Sleep that knits up the ravell’d sleave of care,
The death of each day’s life, sore labour’s bath,
Balm of hurt minds, great nature’s second course,
Chief nourisher in life’s feast,–
「もはや眠るな、マクベスは眠りを殺した」
と叫ぶ声を聞いた気がする、無垢の眠り、
気苦労のもつれた糸をほぐして編むのが眠り、
眠りは、日々の生活のなかの死、労働の痛みを癒す入浴、
傷ついた心の軟膏(なんこう)、自然から賜ったご馳走、
人生の饗宴の主たる栄養源だ。「マクベス」第2幕第2場