◎那珂秀穂、小田嶽夫、武田泰淳と薛濤
先日、紹介した佐藤春夫訳も含めて、それぞれの訳は、それぞれの趣きがあるようだ。「大唐帝国の女性たち」での訓読訳も捨てがたい。
春望詞 其一
花開不同賞 花開《さ》けど同《とも》に賞《め》でられず
花落不同悲 花落《ち》れど同に悲しめず
欲問相思處 相思所《こいするところ》を問わんと欲《すれ》ば
花開花落時 花開き花落る時と
訳詞)
・那珂秀穂訳
花咲きてうれしかるとも
花散りてかなしかるとも
いかがせむ 君はいづくに
ながむるや 咲きて散る花
・小田嶽夫、武田泰淳訳
花が咲いたら しぼんだら
かたりあひたいあのひとと
うれしかなしもむねのうち
花が咲くのに しぼむのに
其二
攬草結同心 草を攬《ぬ》いて同心を結び
將以遺知音 将《まさ》に以て知音《とも》に遺《おく》らんとす
春愁正斷絶 春愁 正に断絶し
春鳥復哀吟 春鳥 復《ま》た哀吟す
訳詞)
・那珂秀穂訳
垣根ぐさ誓《うけ》ひ結びて
なつかしき人にしめさむ
春なればいよよ切なく
春鳥の啼く音《ね》かなしも
其三
風花日將老 風花 日に将《まさ》に老いんとし
佳期猶渺渺 佳期《けっこんのひ》 猶お渺渺《びょうびょう》たり
不結同心人 同心の人と結《むす》ばれず
空結同心草 空しく同心の草を結ぶ
訳詞)
・那珂秀穂訳
風に散るたそがれの
はるのなごりぞほのかなる
思ほゆ君にわが逢わで
むなしく結ぶめをと艸
其四
那堪花滿枝 何ぞ堪《た》ん 花 枝に満ちて
翻作兩相思 翻《かえ》って作す両相思《こいごころ》
玉筯垂朝鏡 玉筯《なみだ》 朝の鏡に垂れるを
春風知不知 春風は知るや知らずや
訳詞)
・那珂秀穂訳
花咲きぬ 枝もたわわに
わが恋のつのるがごとく
朝鏡 うつるなみだを
春の風 知るや知らずや
参考)高世瑜「大唐帝国の女性たち」
「魚玄機 薛濤」(漢詩体系15)
写真は唐代の女性の騎馬姿の俑人形